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和歌山県南部川村/梅と健康の村づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年6月16日
村を見下ろす梅林の写真

村を見下ろす梅林

“ふれ愛ホール”でおしゃべり(南部川村保健福祉センター)の写真

“ふれ愛ホール”でおしゃべり(南部川村保健福祉センター)


和歌山県南部川村

2443号(2003年6月16日)  南部川村長 山田 五良


はじめに

南部川村は、緑豊かな自然のもと、梅の香りのする「活力に満ちた村」であり、すべての村民はいきいきとして生産に励んでいる。

村づくりのスローガンは「梅と健康の村づくり」として、梅を中心にして、農業・工業・商業の一貫した地場産業を形成し、村民経済の充実発展につとめている。また体の健康は言うに及ばず、健全な精神の育成につとめ、心身ともに健やかな人づくりを目指している。

梅は百花の魁(さきがけ)といわれ、寒風冷気の中、力強く蕾を膨らませてくる精力は実に神秘的生命力をもっているのである。

私どもは、この梅の花の精神を活かし、これまで先人がたゆまざる努力によって積み上げてくれた良き伝統と基盤を受け継ぎ、夢とロマンに満ちた21世紀社会を築き上げるべく日夜懸命の努力を続けているのである。

和歌山県統計協会が発行した「100の指数からみた和歌山、平成14年版市町村編」の抜粋を見ると別表のようになっている。

この表を見ると、南部川村は純農村で、若者が多く、出生率も高く、農業生産額も上位にあり、製品出荷額も農村としては高い位置にある。労働力率は男女とも1位にあり完全失業率が最低であることは、みんなが働いているからだ。国保医療費が最低位にあることは、みんな健康であると言える。水道普及率も100パーセントとなっている。下水道施設も現在工事が着々と進んでいる。一世帯当たりの人員数は1位だが、高齢者世帯の割合、一人暮らしの老人世帯割合は最低に近い。被生活保護人員も最低である。持家率は1位であり、個人村民税の一人当たり負担額も1位である。

ここ十数年に村民所得の伸び率全国1位(NHK、TVデータマップ日本より)にもなっている。

これだけを見ても農村としては元気のある村であると云える。

梅は健康食品

南部川村には日本一と称する産物が二つある。

一つは梅で、もう一つは備長炭(びんちょうたん)である。梅の全国生産量は、年平均で約10万トン、そのうち和歌山県が約6万トン、南部川村では約2万トンで、市町村単位では最多の生産量である。さらに品質においても「南高(なんこう)」というブランド品種は本村で生まれたもので、青梅、梅干とも市場性は最高位にある。

梅は古来、薬用食物とされ、村上天皇(960年代)のころ、都に悪病が流行し、天皇自身も悪病に罹られたが、そのとき梅干を召し上がられ快癒なされたと言い伝えられている。また「申(さる)年の梅は薬になる」と特に重宝がられている。

昔の武士は「梅を望みて渇きを止む」を訓としたそうで、戦場で飲料水が無く口喉が渇き体力消耗が激しいとき、梅干を想い出せば口中唾液が充満し、一時的に渇きを押さえられるということである。

このように、梅干は唾液の分泌を促し、消化機能を活発化するとともに、殺菌力も働き、体内ではアルカリ性化するなど、薬理効果のもった保健食品といえる。

健康食品である梅を生産する村民が健康であることは数字的にみても間違いのないことであるが、昔から夏の炎天下での梅干し作業は苛酷な仕事であるが、その梅干し仕事をする者は暑気あたり(暑さに負けて体が弱ること)がしないことも事実である。

村内小中学校の給食には梅ぼし或いは梅を使った料理も提供しているが、子ども達は何ら抵抗なしに食べている。

因みに私は毎日3食梅ぼしを欠かしたことがない。特に昼は梅ぼし入り日の丸弁当である。職業柄酒席に出ることもあり、魚、肉類を口にすることが多いが、食後には必ず“梅エキス”を飲んでいる。二日酔いもせず胃腸はすこぶる快調である。

現在南部川村では、村立うめ21研究センターと和歌山県立医科大学と提携して、梅のもつ成分の医学的効能試験研究を行っている。これが完成すれば梅の何がどうして体に良いのかが医学的に立証できることになる。

健康には、「身体の健康」と「心の健康」が揃わなければならない。人生の最大の幸せは健康であろう。一旦病に罹れば、或いは、ケガなどすれば、体の痛み、心の痛み、治療費の痛み、減収の痛み、家族の痛み、最後に生命を失う痛みなどを避けることはできないのである。この損得勘定をしてみれば、健康が如何に大切であることが分かる。

本村の国保被保険者一人当たりの医療費が年21万2千円、和歌山県平均が32万3千円であるから、その差11万1千円となる。被保険者数約4千5百人だから単純計算すると年間約5億円儲かっていることになり、これが20年余続いているのだから百億円以上の医療費が節減されていることになる。

南部川村が梅と健康の村づくりをスローガンに掲げた所以がここいある。

梅ぼし分析研究(うめ21センター)の写真

梅ぼし分析研究(うめ21センター)

ブランド品種「南高梅(なんこううめ)」の写真

ブランド品種「南高梅(なんこううめ)」

保健医療行政

村行政の中で保健医療行政は特別専門分野である。いわゆる素人の生兵(療)法は大怪我の基となるおそれが多分にあるところから、まずは専門機関である県の保健所の門をたたき、所長以下幹部職員に半日南部川村の日として時間をとっていただき、村からは村長以下担当課長や職員が出向いて、村民の健康を守るためには予算は惜しまないからその方法を考えて欲しいと相談した。20年余の前のことであったがその後3~4回続けた中で、いろいろな案が出されたが先ず検診を取り上げることにした。当時南部川村の検(受)診率は県下でも極めて低い位置にあった。

検診には、疾病の早期発見、早期治療、自己の健康管理意識の向上等の効果のあることは分かっていても、受診を渋る傾向が強かったので受診率を如何にして向上させるかが課題であった。

その手段として、検診実施時期を村の農閑期とした。県の検診実施計画は県の都合を基に組み立てられるが、南部川村での実施は農繁期を避けてもらうことにした。

検診時間は早朝実施とする。県の検診車は勤務時間上午前9時頃からになるが、それを早めてもらい夏期なら6時半頃から始めてもらうことにした。そうすることによって、早朝の涼しいうちに、また仕事に行く前に受診できることになった。

検診内容については、胃、子宮、乳房、胸部(肺ガン・結核)、大腸ガン、基本検診(循環器)がすべて一度に受診できるようにした。また検診の待ち時間を短縮することに工夫をこらした。

検診の結果、村民の健康状態がわかってくるから、それを基にしてその後の保健行政と事後指導のあり方の組み立てができるようになってきた。

このようなことを毎年繰り返し実施していると村民の受診率は年々向上し、現在では県内1位になっているが、これは今まで検診を受けることに一種の恐怖感をもっていた人たちも、検診の効果が理解できるようになり進んで受診するようになってきたからである。また病気にかからないように、生活習慣の改善、食事、運動、休養など健康づくりに関心が高まってきた。もちろん村行政の各セクションにおいても健康の村づくりを目ざした活動を展開している。

医療費が低額であることは、一つだけの要因に拠るものでなく、いろいろなことが複合的に作用していると思うので、それだけに保健衛生行政は多角的に幅広く実施する必要がある。

例えば交通事故撲滅運動がある。一発事故をやれば最悪の場合は生命を失い、危害は大小を問わず人身に及び、ケガは即医療費の負担を増加さすことになる。

村では交通事故を損得の問題にして意識するよう啓発につとめている。先般、本村が多年にわたり地域社会における交通安全の向上に尽力したとして、交通対策本部長、内閣官房長官より表彰を受けたが、これも村民の健康を守り医療費軽減の一策となっているのである。

また、よく働くことも一因になっていると思う。労働力率1位で完全失業率が最低であるということは、みんな元気で働いているからであり病気している暇がないからだろう。医院が老人サロンになっていない。

南部川村保健福祉センターの写真

南部川村保健福祉センター

老若男女躍動レリーフ(保健福祉センター)の写真

老若男女躍動レリーフ(保健福祉センター)

活動拠点施設

保健福祉センターは、健康の村づくりの活動拠点施設である。これまでの保健福祉施設といえば、高齢者であるとか、社会的弱者といわれる方々が使用されることが多かったので、一般社会から隔離されたイメージでみられがちな施設であったと思うが、この保健福祉センターは、老いも若きも、障害のある人も健常者もみんな一緒になって互いに認め合い、励まし合い、助け合うというコミニケーションの場とし、またボランティアの育成と活動の場としても活用できることを目的につくったものである。

従って建築構想段階で、医師や若い母親、老人クラブ、体育協会ほかそこで働く人たちの意向を存分に取り入れて計画を練った。

またこのセンターから遠隔地にある地域の公民館や介護予防施設にはセンターに設置している保健器具(ヘルストロンなど)と同じものを常備して利用者に利便を供している。

湯治場

村内に昔から濃度の高い純重曹泉が湧き出しており、負傷した鶴が飛来して泉水溜まりに浸って傷を癒して飛び立っていくのをみて、地区民はそれを「鶴の湯」と名付けて湯治場に利用していた。

南部川村ではこれを再開発することにしたが、通常温泉場をつくる場合は先ず観光を目的とすることが多いのであるが、健康の村づくりを進めている本村では、村民の健康回復のための湯治場「鶴の湯温泉」として整備した。ところが入浴利用者は村民よりも村外者の方が多くなっている。宣伝広告も誘致キャンペーンもやっていないのに湯治効果が口コミで広がったためで、人間は如何に健康に関心が高いかが窺い知れることである。

衣・食・住

近年日本人は食べ物には極度に神経質になってきている。またそうしなければ健康体を保てることができない程、生活環境が悪化してきているからである。衣食住のすべてに化学製品が混入されているからその中で如何にして健康な村づくりを進めていくのか悩みは大きい。衣食住足って礼節を知る、は昔のこと。今は衣食住足って病気になる、である。

こらからの健康行政は、人間生活の原点から再出発する心構えが大切であり、衣食住はつとめて自然天然ものを使うことに心がけるべきであると思う。