市町村合併のあり方に関する意見
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平成13年5月
全 国 町 村 会
21世紀を迎え、少子高齢化の進展、多様化する住民ニーズ、地方分権の推進、危機的な財政状況等への対応から市町村合併の推進が大きな課題として取り上げられている。
今後、町村に期待されることは、住民に最も身近な基礎的自治体として社会経済情勢の変化に的確に対応し、一層重要となる役割を十分果たすための行財政基盤の充実であることは言うまでもない。
しかしながら、それぞれの町村は、歴史的な経緯、文化・風土や自然的・地理的条件等が異なっており、市町村合併は地方自治の根幹に関わり、将来にわたる地域のあり方や住民生活に大きな影響を与える最重要事項であるので、関係市町村の自主的な判断を尊重することが何よりも重要である。
よって国及び都道府県は、市町村合併について地域住民の意思を十分に尊重するとともに、下記事項に十分留意の上、強制することのないよう強く要請する。
記
1.市町村合併の理念と目的の明確化
そもそも地方自治とは、地方における政治と行政を地域住民の意思に基づいて、国から独立した地方公共団体が、その権限と責任において自主的に運営することを指すのであり、地方分権改革の意義は、憲法で保障されたこの地方自治理念の実践に他ならない。
市町村合併は単なる自治区域の再編にとどまらず、そこに暮らす住民生活に大きな影響をもたらす。したがって、合併を進めようとするのであれば何のための合併なのか、合併してどのような地方自治体を形成し、住民生活はどうなるのか、現在のまちがどう活性化するのか、といった観点からの中長期的な理念と目的を示すことが極めて重要である。その際、過去の大合併がもたらした功罪を検証し、その教訓を将来の地域づくりに活かす視点が不可欠である。
理念と目的を欠いたまま早急に合併を推し進めることは、過疎や疲弊を一層進行させ地域の崩壊を招き、我が国の将来に大きな禍根を残すことになりかねない。
このような趣旨に鑑みれば、どのくらいの規模で自治を行うかということは、自治の根幹に関わることであり、合併するか否かの判断はその主体である町村の自主的な意思によるものでなければならず、国、都道府県はいかなる形であれ強制してはならない。
町村はこうした理念と目的を考慮した上で、将来のあるべき姿について地域住民を含めて十分検討し、合併の是非を決定すべきである。
2.自主的合併のための行財政措置
中長期のビジョンを示すことが自主的合併のための前提であることは既に述べたとおりであるが、自主的な判断による合併を推進するにあたっては、十分な行財政措置を講じる必要がある。
国においては、地方財政措置を始め合併推進のための種々の施策を打ち出しているが、本会としては、さらに次のような措置を講じるよう要請する。
①市町村合併に対する新たな特別交付税措置の支援内容の拡充と措置期間をさらに延長すること。
②現行合併特例法が保障する合併後10カ年の交付税措置については、年限を延長するなど将来への懸念の払拭を図ること。
③合併直後の臨時的経費のさらなる拡充を図ること。
④合併する町村間の道路、上下水道、情報化等の行政格差及び公債費比率等の財政格差を是正すること。
⑤土地開発公社等の不良資産整理に対する財政支援措置を図ること。
⑥国・都道府県の行う合併支援経費に対する財政措置を拡充すること。
⑦合併後の町村職員の処遇を明確にすること。
⑧性急な合併を避けるため、行財政措置を合併特例法期限以降も延長して講ずること。
3.都道府県等の役割について
個性豊かな魅力ある地域社会の構築のためには、多様化した住民ニーズを把握できる立場にある市町村が、住民に身近な行政を展開する必要がある。
都道府県は、市町村では処理できない広域的な行政需要への対応や時代の変化に即応した市町村行政の補完・支援等の機能を発揮するとともに、市町村合併については、市町村の求めに応じて具体的な助言や調整、支援措置等を講じるべきである。
一方、分権型社会への移行は、市町村のあり方のみならず都道府県も含めた行政体制のあり方を問う議論へと発展するものと考えられる。
したがって、将来的な都道府県のあり方や、中核市、特例市のあり方についても検討を加え、行政体制の全体のあり方を考える中で市町村合併を捉えるべきである。
また、国の地方出先機関についても、存廃も含めそのあり方について検討を行うべきである。
4.合併が困難な市町村について
町村部は、人口では国全体の約2割しか居住していないが、面積では約7割を占めており、食料の供給や水資源の涵養等、国土保全の観点からも極めて重要な役割を担っている。
とりわけ、辺地、離島など地理的条件が不利な地域の振興策は、残された自然環境の保護等、国土保全上も極めて重要であることを認識しなければならない。
また、農村地域の衰退は食料安全保障の観点からも重要な問題として捉えることが不可欠であり、農政のあり方も含めた検討が必要である。
自然的、地理的、社会的な条件等から合併することが困難であるか、あるいは合併効果が薄いと見込まれる地域においても、住民に対する一定水準の行政サービスを安定的に確保することは、行政として当然のことであり重要な課題である。
したがって、事務事業の広域的な対応を行うことが困難な場合やそれによる十分な効果が期待できない場合等においては、地域の実情や意向等を配慮した上で、都道府県による適切な補完・代行制度等の導入を視野に入れた振興策を検討すべきである。
5.市町村合併以外の広域行政について
地方分権の受け皿としての観点、効率的な行財政運営の観点から広域行政が必要とするのであれば、例えば介護保険制度への対応にみられるような広域連合等による広域行政の仕組みを活用することも視野に入れるべきである。
危機的な地方財政への対応が合併推進の背景にあるとするならば、合併による場合と既存制度の活用による場合とを比較するなど、その改善効果等を十分考慮の上判断することが重要である。
指摘される責任所在の曖昧性等、広域行政の不備については、その改善・充実を図ることが必要であり、改善策を講ずることなく合併のみを推進することは好ましいあり方ではない。
既に述べたとおり、市町村合併は条件が整った地域から住民合意のもとで自主的に行われるべきであり、広域行政等による事務の共同処理等、広域的な対応過程を経て、合併へと発展するという段階も考慮すべきである。
6.数値目標の設定について
将来の地方自治体や人口の数値については、あくまでも自主的合併が進んだ結果であって予め設定すべきではない。
自治体の適正規模というものは、経済的な効率のみで論ぜられるべき性質ではないと考える。
したがって、地域のあり方についてその理念・目的を示すこともなく数値を設定することは、半ば強制合併を意図したものと考えざるを得ない。
7.住民投票の制度化について
合併を判断する際の一つの手段としての住民投票は考えられるが、それはその時の当事者が判断して行うべきであり、地方分権の観点からも地方自治体に委ねるべきである。
住民投票の制度化については、我が国の地方自治制度が代表民主制を採っており、その基本を損ねるおそれがあることから慎重であるべきであり、一般的な問題への波及防止に十分な配慮がなされるべきである。
8.地方税財源について
地方税財源については、地方分権の観点から町村が行う事務事業に見合う必要かつ十分な財源措置を講じるべきである。この場合、町村が一般に人口割合に比べ広い面積を有し、食料の供給、水資源の涵養、自然環境保全等のための重要な役割を果たしていることに十分配慮すべきである。
とりわけ、地方交付税は地方固有の財源としてその偏在による財政格差の是正や、住民に対し法令等で定められた標準的なサービスの供給水準を保障する財政調整・財源保障という極めて重要な機能を有している。 どこに住んでいても一定の等しい水準の行政サービスを享受できることは、地域の政治的、社会的な安定を確保し、人々の生きる権利を保障する観点からも重要である。
地方分権を今後強力に推進するためにも、地方交付税の適正な水準の確保と維持は不可欠である。
また、地方分権をより実効あるものとするため、税財源の移譲は早急かつ積極的に行われるべきであり、同時に町村自身も課税自主権に基づく自主財源確保のための創意工夫を図るべきであるが、現行制度のままでの移譲は、課税客体の乏しい自治体の充実につながらない懸念がある。
したがって、仮に、現行制度の見直しが検討される場合であっても、町村が基礎的自治体として担う役割と現行の地方交付税が有する機能を堅持するよう十分に配慮すべきである。
9.町村の課題について
(1)都市との共生
現在、2,554ある町村は、山間部や離島から大都市隣接部まで極めて多岐にわたって所在している。大都市に近い町村ほど都市的要素は濃厚となり、生活圏や経済圏の拡がりが都市との一体性を促進し、それが市町村合併の問題にも影響を及ぼすことが考えられる。
一方、山間部や離島など専ら地理的条件から都市といわば隔絶した状況にある町村部が、地方交付税の見直し論議に見られるような対立の構図として捉えられることは誠に残念なことである。
国土の発展を図るとき、こうした条件の不利な地域の振興・発展を国全体の問題としてどこまで認識しているかが出発点になると考える。その上で、その解決策を政策としてどう講じるかということを考えるとき、都市との関係を対立の構図で捉えるのではなく、互いに補完し合い共生してゆく視点が重要である。
豊かな自然に恵まれた環境で子を産み育て、人間らしく暮らせる社会を将来の世代に残すための努力が、いま求められていると考える。
(2)住民自治の実現に向けて
地方自治の本旨を問うとき、いわゆる団体自治と住民自治という考え方で捉えるとするならば、これまで議論され一つの区切りをみた地方分権改革は、専ら団体自治の徹底を目指すいわば行政機構内部の構造改革であった。
一方、成熟した文明社会の中で、本当の豊かさを求める思潮が胎動し始めている。環境問題への対応や公共事業のあり方を問う住民の声に代表されるように、これまでの行政のあり方の再考を促す声に真剣に耳を傾け、これに応える住民自治の拡充がいま求められている。
我々は情報公開の徹底や行政評価の導入、住民ボランティアやNPO等との連携など、住民に開かれた行政の実現に一層努力する必要がある。
また、広域的な協力関係を既存の枠にとらわれることなく、あらゆる面において検討し、効率的で無駄のない行政の実現に向けた努力もまた必要である。こうした努力の継続が、住民と行政の距離を一層縮め、市町村合併を考える際にも適切な判断材料を提供することにつながるものと考える。
地方行政を住民の意思によらしめ、住民又はその代表者の手によって自主的に処理させることが住民自治であり、その意思形成には十分な検討期間が必要となる。市町村合併を考えるときこの原則を忘れてはならならず、決して合併を急いではならない。
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