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大森彌千葉大学教授講演要旨

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年1月31日

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 最近の基礎的自治体の在り方に関する論議を整理しながら、争点となるであろう点についてお話したい。
 はじめに平成17年3月の特例法の期限切れ後の対応についてである。自民党プロジェクトチームの中間報告では合併特例法の後のことについて特段触れられていない。特例法が終わったら直ちに小規模町村の整理に入ることになっている。しかも小規模市町村の人口が括弧書きで、例えば人口1万人未満とされている。なぜ1万人以下なのか、人口だけで小規模と定義できるかという点は曖昧なまま出されている。合併を強制するこのような手法は政治的にもコストがかかりすぎるし、拙速であるとの印象は否めない。実現不可能だというのが私の考えである。
 一方、それに対して西尾私案が対案を出す形になっている。私案では、今回の合併が済んだ後、違う特例法を作って一定期間もう一度合併を問いかけるべきであるとしている。これほどの支援を行っても合併が進まないのに17年度以降また合併なのかという思いがあるだろうが最後までNOと言い切れるだろうか。NOと言えば今回合併を見送ったところは直ちに始末をつけると言われかねない。やはり、もう一度合併を促す場合の根拠と手法についてどう判断するかという点が争点になるだろう。
 まず根拠については、少なくとも現行法制上の市並みということで、人口が拠り所となっている。市並みということを特例法で読むと3万、自治法本体で読むと5万になる。合併を再度促す対象はそれ以下のところになるだろう。しかし合併が進んでいない理由を人口が一定規模以下であるという点に帰することは事実に反している。現在の合併の進捗状況をもう一度点検してもらいたい。明らかに今回の合併では都市側に問題があって進まない部分が多い。したがってもし再度促すなら全市町村にやるべきだ。一定規模以下に限定する根拠はないと考える。
 次に手法についてだが、先に述べたように強制合併は政治的に難しいので、ぎりぎり自主合併の枠組みにとどまりながら強制合併にならない手法しかない。明白なのは財政支援はもう行わないということである。これほど国も地方も財政的に厳しいのに、金を配って合併させようという考え方は旧時代的である。合併後基準財政需要額が膨らみ、合併前より交付税が多くなる場合もある。個別に検討しない限り、もともと財政面で一律にメリットを計ることはできないのだ。このような財政手法を採らないとすると行政手法しかない。昭和の大合併の時のやり方などを考え合わせると都道府県が斡旋・調停、勧告という形で役割を果たすことになるだろう。ここまでが次の特例法の主な内容になるだろうが、これだけではとても動かないと国は見るだろう。都市部と合併した場合旧町村が寂れるという懸念に対して、寂れない工夫をしていただいて結構だから、何とか踏みきってもらえないかという案を同時に仕込むのではないか。合併後旧市町村が今まで営んできた重要性に鑑みて合併後、現在の特例法で決めている地域審議会を越えるようなものを考えるべきではないかと自民党案の中にもある。そういうものを作ると地域エゴが残って合併の実が上がらないというのが昭和の大合併以来の発想だが、区域を大きくする際に内なる自治を充実させることは必要なことだ。この仕組みを自由に各市町村が作りうるようどこかでできるという根拠規定をおくことについて、もうすでに総務省の中では検討が行われている。一般制度で打ち出すのか合併の場合に限定するのかは分からないが問題はこれをどの段階で打ち出すかだ。それをセットにして出された時に、それを含めて市町村がどう考えるかがポイントになるだろう。
 ただし、そういう案を作ったからといって町村をなくしてしまっていいということにはならない。自民党案では小規模町村の事務を縮小して周辺自治体に肩代わりさせるとしているが、自分の行政区域でない住民に対してやることなどできない。やってもらう方も属地扱いされるような案は認められない。この案は実現不可能だ。したがって西尾私案にもない。残っているのは都道府県が肩代わりする仕組みだがこの場合考えられる方法は3つある。
 一つは直轄でやることだが、行革の時代に残った町村のために出先機関を新たに置くなどということは分権改革に逆行する案であり、あり得ない。 二番目は周辺の市に委託することだが、この案はすでに述べたように不可能である。残るのは県が小規模町村以外のところと広域連合を組むことだが、ここに西尾私案の弱点がある。合併特例法と骨太方針と自民党案と西尾私案は一貫して広域連合方式を全部捨て去って合併一色という立場だ。西尾私案も基礎自治体を全部作り直す案なので広域連合方式を一切前提にしないない。しかし県が肩代わりする案になったとたん広域連合が再び登場してきてしまうのだ。
 最後の大きな争点は、全部どこかの基礎自治体に編入する案である。編入しておいて、将来合併により一定規模まで大きくしておいてそこへ都道府県の事務権限を移譲することで基礎自治体の体制を整えるというもので、もし残るのならこの案だろうが、ここでまた争点が出てくる。小規模なところは周辺の基礎自治体に自動的に編入されるという事実上強制合併である。憲法が認めている地方公共団体から外そうすれば法的に強制しないとできない。本当にそれができるか。強制編入は今まで我々が認めてきた自主合併に反するものでその是非についてきちんとものを言えるかどうか。
 しかしそれだけで踏みとどまれるかどうか。そこで今度は広域連合を逆手に取る方法が出てくる。広域連合制度は調整がうまくいかない、コストも結構かかるなどの理由で失望され、その段階で捨て去られてしまい、一本になれば意思決定も早くになり効率的だという理由で直ちに合併一辺倒になってしまった。
 分権改革の時に従来の上下主従の関係を対等協力の関係に変えようとしたが、この考え方は市町村間についてもあてはまる。広域連合というのは市町村同士が対等でありながら、自分たちを超えている問題を持ち寄って解決しようというもので、分権改革に非常に合った仕組みである。分権改革の前に仕込んだ手法を時代が変わって分権改革の後、使いやすいように再構成すれば活き活きとしたものになるのではないか。その上で、「自治の単位としての市町村はきちんと残しつつ、協力しなくてはならない相当程度のことは新たな広域連合で行い、合併した場合に相当程度近づくように自分たちの手でやり抜きます」、「総額として当面の交付税の切り込みに対しても自分たちできちんと対応できますからこの案を並置して選ばせてください」というのが対案である。今のところ考えられる対案はこれしかない。
 もちろん合併を自主的に選択する道を閉ざす必要はないが、強制編入だけに限るというのはどうやっても成り立たない。農山村地域を包含して大きな市になったとしても農山村地域への配慮は希薄になってしまう。国土の多様性に相応しく自治にも多様な仕組みがあってしかるべきだ。将来一つのタイプの自治体しかないと全国が均質になってしまう。農山村地域に相応しい自治の仕組みをきちんと考えるべきだ。
 しかし今のままでいいということではない。何とかして今ある町村を残しながら新しい形態で努力に乗り出していきますということを見せない限り簡単にはいかないだろう。