平成12年4月の地方分権一括法の実施に伴って、わが国の自治体は、自己決定・自己責任の原則の下、それぞれに個性ある地域づくりにむけて創意工夫を発揮することを強く期待されています。しかし、折悪しく、国地方を通ずる財政の危機的状況はその深刻さの度合いを深め、さらに、年を追うごとにその厳しさは増していくものと予測されています。
  自治体が国に救済を求めても、もはや国にはこれに応える余裕はほとんどなさそうです。これを慨嘆しても仕方ありません。行政サービスの取捨選択の方途を地域住民に問いかけつつ、徹底した行財政改革を進めなければなりません。現在、全国的に推進されつつある自主的な市町村合併も、そうした努力を結実させるための有力な選択肢の一つであると思います。合併を国等から言われるからではなく、それが区域の再編という住民にとって最重要事項であるがゆえに、すべての町村は、文字通り、まなじりを決し、熟慮・検討して、自らの将来を選択すべきだと思います。
  町村としては、こうした時代の不可避の要請に果敢に応えつつ、以下の諸点に関し決意を表明すると同時に、広く各界に理解と支持を強く訴えたいと思います。
 
(1)農山村の自立にむけて
  ○農山村の良さと価値を再認識し、美しい地域を創っていく
    農山村における集落と農地と森林などが見事なコントラストを描き、美しいたたずまいを見せ、そこに住む人々が、自らの地域に誇りと自信をもっている、そうした農山村は全国民の財産であると考え、町村は、住民と協働して、農山村の美しさにみがきをかけ、そこで生き生きと暮らす様子をきちんと情報発信していきます。
 
  ○地域を重層的に活用していく
    農山村では農業や林業だけに頼っていては、農地や森林から高い経済性、生産性をあげることはできません。地域を二重、三重に使ってより多くの収益をあげる方策を模索していきます。町村は、農山村にしっかりとした所得をもたらすため、異業種・異集団を横につなげる組織化に特段に意を用い、産業区分をこえて地域を多重的に使いこなしていきます。
 
  ○自然との共生を確固たるものとし、地域再生に取り組む
    従来の開発方法に反省を加え、自然との共生の道を確固たるものとすることは、今後の町村行政にとって前提条件であると考えます。町村は、地域の自然環境を知り尽くした現場の人たちと協働して、自然と人とが持続的に共生しつづけられるよう先駆的、先端的な事業に取り組んでいきます。
 
  (2)町村自治の充実にむけて
  ○地域に根ざした産業政策の担い手になる
    農山村の主産業である農林漁業は、地域の環境や景観と密接不可分です。それゆえ農林漁業の維持・振興のための施策は、町村行政として必要不可欠な課題です。しかも、町村における自治の仕組みと農林漁業の振興の仕組みが有機的に連携をしなければ、農山村を維持・発展させていくことはできません。町村は、いかに難しくとも、地域の産業政策を調査・企画立案する主体としての役割を果たしていきます。
 
  ○小規模のメリットを活かす
    町村の優位性は、小規模であるがゆえに、地域全体を見渡し、住民ニーズをきめ細かく捉え、施策間の調整を図りやすいという点にあるといえます。町村は、このメリットを活かした行政を展開して、土と食と住と人の魅力的な結合を創り出し、他には見られない独自性を発揮していきます。
 
  ○最初の政府としてのあり方をめざす
    町村は、住民が最も接近しやすく、どこよりも住民の声が届きやすいという意味で「最初の政府」といえます。その特色は、身近さ、現場性、透明さ、先端性にあるといえます。町村は、その責任を全うするため、情報公開と住民参画を一層促進することによって、無駄を省き、受益と負担の関係を明らかにしながら、地域生活の質を高める政策を精選していきます。
 
(3)農山村と町村の自立支援にむけて
  ○都市と農山村の共存を求める 
    改革の時期には、ともすれば利害の対立を強調する誘惑に駆られやすいのですが、先進諸国で定着してきた内政の基本からみても、都市と農山村を対立して捉える発想は、日本の国内だけの閉鎖的な議論ではないでしょうか。山と川と海が生態系として結びついていること一つを見ても、農山村が滅びれば、ついに都市は滅びることになるのではないでしょうか。農山村の多面的な価値を大切に考え、都市と農山村の共存を揺るぎない国是とすべきです。
 
  ○多様性の容認を求める
    農山村の価値と町村の存在意義を認めることは、日本の国土と自治の多様性を大切に考えることではないでしょうか。「まほろばの国、木の国・日本」という発想を軽視し、全国を市制化で覆い尽くしてしまえば、日本文化の多様性そのものが滅んでしまわないでしょうか。都市とは異なる存立条件で成り立つ農山村の重要性に改めて眼を向けるべきです。
 
  ○新たな町村制の制度設計を求める
    いまも都市化の流れは強く、地方自治制度の運営は市の多様化と強化(政令指定都市・中核市・特例市と事務権限の移譲)に向かっています。しかし、農山村地域に所在する町村は、全国画一的な自治制度の下で多くの事務を義務づけられ、しかも自主財源が乏しく、国等からの移転財源が減少していく中で、ますます苦境に追い込まれる可能性があります。農山村の多面的な価値を守り、町村の持ち味が発揮できるような、事務と財政の新たな自立支援の仕組みが必要です。

 


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