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シリーズ田園回帰③ 田園回帰の過去・現在・未来

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年5月16日更新

シリーズ田園回帰③
田園回帰の過去・現在・未来

小田切 徳美・筒井 一紳 編著
農文協刊 2,376円(税込)

無題

 昨年6月に刊行が始まった『シリーズ田園回帰』の第3巻は、「田園回帰」を前面に打ち出した内容。田園回帰はもはや「単なる現象ではなく『潮流』」とする著者の見立てによれば、 この問題を「過去・現在・未来」という時間軸の流れとして捉えることには現在的意義を見出せよう。しかしその連続性を、時間軸のみならず空間軸上に置くことによって、 移住者と移住先のコミュニティや都市と農山村の関係など、場所や地域、国土を意識した空間概念にまで拡張して捉える意義が浮かび上がる。本書はこの視点に立って人口移動論にとどまらない都市と農山村の関係や、 移住者と地域の関係などを多軸的に捉え、研究者の視点、移住者の視点から田園回帰とは何かを明らかにしている。

 農山村移住で40年の歴史を持つ和歌山県那智勝浦町色川地区。 同地区に1981年に移住した原和男氏は、「移住者は地域の担い手になりうるか」(第2章)の中で次のように指摘する。「人の営みが積み上げてきたものを軽んじてはならない」、「先人への感謝の念が『受け継いで次に託す』思いを醸成する」、「移住者は、『これまで』があって『いま』」があることを見失ってはならない」。過去、現在、未来を断絶して捉えてはならないと警鐘を鳴らす。

 田園回帰という言葉は多義的であり、人により捉えるイメージもまた様々である。本書は、田園回帰の現在日本社会における位置づけを明確にし、シリーズタイトルの解説書としての役割を果たしている。 農山村への思いを抱く人々が、自分にとっての田園回帰とは何か、多様な形態、たくさんの選択肢の中から、その思いを形にする際の一助になるであろう。