貿易交渉と言えば、頓挫状態にある「TPP」を思い浮かべる人が多いであろう。だが、件のTPPなど自由貿易交渉がどのような姿なのか、また欧州ではどのような議論がなされているのかについて知っている人は少ないのではないか。本書は、TPPやポストTPPと目されているRCEP(東アジア地域包括的経済連携)、そしてTTIP(米国・EUの環大西洋貿易・投資パートナーシップ協定)など日本では殆ど報じられていない経済連携協定の実態とその影響を明らかにしている。著者は、TPPや経済連携をウォッチしてきた日本を中心に、米国、ベルギーなどの国際NGO関係者や国際政治学者、経済学者。米国のTPP離脱、英国のEU離脱の本質は、「自由貿易vs保護貿易」ではないとする。日本ではいまだに「自由貿易=農業・工業の関税問題」という認識が強いが、メガ経済連携が、環境や健康の維持、地域間格差の是正と公正なルールの確保といった、国際社会が本来追求すべき方向から大きく逸脱している姿が浮かび上がる。6500頁もあるTPPの協定文に「気候変動」という文言は一つもないという(本書70頁)。無関心でいると大変なことになりかねないことを思い知らされる一冊。