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『流しの公務員の冒険』

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年12月2日

『流しの公務員の冒険』

時事通信社刊 元常滑市副市長 山田朝夫著
定価 1,500円+税

無題

 本書は自治省(現総務省)に入ったが、霞が関を捨て、市や町を渡り歩いて腕一本で「問題解決」に当たる行政の職人「流しの公務員」になった元官僚の体験記と仕事論だ。 仕事の集大成ともいえる大赤字の市民病院再建、その原点となった大分県久住町(現竹田市)での実践が具体的に描かれている。

 「霞が関でよりも現場の市や町で物事を進めていくのがなすべき仕事だ」。こう考えて霞が関を捨てた著者がモデルとしたのはイギリスの「シティ・マネジャー」。 期間限定で構想実現のための請負人を公募で採用する制度だ。

 キャリア官僚として初めて、町の一般職になった久住町での体験は著者の意識を一変した。消防団に入り、山火事を防ぐ。 郷土芸能公演で、枠組みを押し付けるのではなくプロセスに参加してもらうと人々が自発的に動き出すことを知る。

 町を二分したバイパスルート問題では、ワークショップ(参加体験型グループ協議の場)を開いて、情報や討議そのものを全面公開することで「全員一致」の決定をみた。 温泉付き公民館建設では男女別、世代別の住民グループ討議で住民意見を吸い上げる。住民意見を「どれぐらい主体性を持って考えたか」を基準にしたコンペで設計者を決めた。

 著者の手法は「自分の意見を持たず、徹底的に住民の意向を取り込んでいく」。権威に頼らず、トップダウンを排する。「民主主義の学校・地方自治」を地でいく仕事は久住町で培った。

 伝道師のように町の行政の近代化を図ろうとして「職員に嫌われた」失敗談も打ち明けている。

 直近の仕事は愛知県の常滑市民病院再建。大赤字で、県医療界から見放され医師を派遣してもらえなかった。 築50年で、新築しなければ存続はありえないが、累積債務を抱え、赤字を穴埋めする市も財政再生団体一歩手前だった。市民からは「死人病院」の陰口も出ていた。

 とんでもない逆風を、市民を巻き込み、順風にしていく。久住でのバイパスルート問題対処、公民館建設の仕事の拡大版ともいえる。

 「現場の仕事は、やりようによってはとても楽しい。小さい自治体であればあるほど、住民に直接喜んでもらえる仕事ができる」と記す本書は、町村職員に面白く参考になる。