地方分権改革推進会議(議長、西室泰三・東芝会長)は10月30日、「事務事業の在り方に関する意見」をまとめ、小泉純一郎首相に提出した。首相から要請されていた「数兆円規模の補助金削減につながる原案作成」について、「意見」は、義務教育費国庫負担金のうち退職手当など5,000億円を縮減し一般財源化するとしたが、その財源措置となる税源移譲については「関係者間で協議、調整が行われるべき」と先送りした。
 このため、地方6団体は会長談話で「到底受け入れることはできない」と批判。片山総務相も「意見とりまとめで委員の意見が大きく分かれ、激しい議論が交わされたと聞くが、今後、地方分権推進委員会から引き継いだ分権改革の志を高く掲げ、さらなる審議を期待する」との“異例”の談話を発表した。これを受けて、政府の経済財政諮問会議では翌31日、同「意見」を踏まえて「三位一体の改革」を議論したが、委員間で意見が対立。今後、内閣府、財務省、総務省を中心に議論を進めることになった。


◆「三位一体の改革」も課題に

 地方分権改革推進会議は、平成13年7月に発足したが、小泉首相から諮問された、@国と地方の役割分担に応じた事務・事業の在り方A税財源配分の在り方B行政体制の整備―のうち、まず「事務事業の在り方」から重点審議し、今年6月には「中間報告」を発表した。ところが、政府が同月閣議決定した「基本方針2002」で、「国庫補助負担金、交付税、税源移譲の在り方を三位一体で検討し、改革案を今後1年以内を目途にとりまとめる」との方針を打ち出し、小泉首相が、分権改革会議に「三位一体の改革につながる原案」の作成を指示した。
 これを受けて、同会議では、「国庫補助負担金の在り方」にも重点を置き、事務事業の具体的な改革案を検討することになった。

◆ローカルオプティマムなど提言

 このような経過でまとまった「意見」は、「各分野を聖域なく見直し、各省庁と合意に至らなかった事項を含め意見を提出した」ことを強調。このため、今回の「意見」を、「1年4か月にわたる審議を集大成したもので、国と地方の役割分担に応じた事務事業の在り方の結論を示すもの」と位置づけた。
 その上で、「総論」では、「改革の方向」として、「補完性の原理」に基づく国と地方の役割分担の適正化を提言。その具体策として「ナショナル・ミニマムの達成から地域が選択する地域ごとの最適状態(ローカル・オプティマム)の実現」を改めて指摘。併せて、「自主・自立の地域社会の形成」と「地域における自立的な財政運営が可能なシステム形成」のため、「受益と負担の関係が明確な仕組みを作る必要がある」と強調した。
 このほか、@地域における行政の総合化の推進A地方の創意工夫の発揮と知恵とアイデアの地域間競争B国の決定についての地方の参画の確保―を提言。さらに、「分権型行政システムへの転換に向けた国と地方の意識改革」の重要性も強調した。

◆義務教育費では“負担転嫁”提言

 これを踏まえて、「意見」は「分野別の見直し方針と具体的措置の提言」として、@社会保障A教育・文化B公共事業C産業振興D治安その他―の5分野について具体的な改革案を提言した。
 うち、「文教・文化」分野では、義務教育費国庫負担制度の見直しが焦点となった。首相が指示した「三位一体の改革」につながる国庫補助負担金の削減とその財源措置としての税源移譲の対象として、総額3兆円にのぼる「義務教育費国庫負担制度」の見直しが対象にぼったからだ。
 しかし、同会議では、同負担金の見直しをめぐり、片山総務相が談話で指摘したように委員の間で激論が交わされたが、最終的には西室議長の提案で決着したといわれる。
 その結果、「意見」は、文科省が提案した義務教育費国庫負担金のうち共済費長期給付負担金や退職手当等を対象経費から外す案について、「地方の自主性拡大につながらず、分権の観点から評価できない」「従来固定的経費とされた人件費も今後流動化していくことを踏まえれば地方の自主性拡大につながる」―との両意見が出され「評価は分かれた」としつつ、「この見直しが義務教育費国庫負担制度全体の見直しにつながる契機となれば、当会議としては改革に向けた第一歩と受け止める」と評価。見直しの具体的措置として、「共済費長期給付、退職手当等に係る経費は国庫負担対象から外し、平成15年度からこれを段階的に縮減し、般財源化を行う」と提言した。
 しかも、一般財源化に伴う財政措置について、「意見」は「一般財源化する以上、税源移譲を伴わなければならないとの意見も出た」ことを紹介しつつ、「当会議としては、具体的な財源措置については、地方分権の観点を視野に入れて関係者間で十分に協議、調整が行われるべきものと考える」と、具体的な財源措置に触れることを避けた。
 併せて、「客観的指標に基づく定額化、交付金化など国庫負担制度の見直し」も提案した。さらに、@市町村費による教職員配置A円滑な人事交流を可能とする教員の給与体系の見直しB事務手続きの簡素合理化、電子化―なども提言した。市町村費による教職員配置は、都道府県の定める定数を超えて市町村が自らの財源で教職員を配置できるようするもので、構造改革特区の中で先行的に実施するとした。
 このほか、初等中等教育に関する国の関与見直しとして、@教科書採択地区の小規模化A中核市立の幼稚園の設置認可の見直しB弾力下での多様な教育活動の事例紹介C教育の「評価と公開」等を踏まえた学習指導要領の見直し―などを提言。また、総合行政の観点からの教育用施設の有効活用として、@補助金で整備された学校施設等の活用促進A教育用施設の一層の有効活用―を提言。さらに、生涯学習・社会教育分野での国の関与の抜本見直しとして、@公立博物館や公民館の設置・運営に関する基準の大綱化・弾力化A埋蔵文化財発掘調査の費用負担の調整円滑化の検討B学校栄養職員、学校事務職員に関する国の関与見直し―などを提言した。

◆幼保一元化も提言

 社会保障分野では、地域における保健・医療・福祉の一層の総合化の推進を提言。具体的には、幼保一元化のための厚労省・文科省協議の継続や幼稚園教諭と保育士の資格の一元化を求めるとともに、「国の関与を根元から見直し、併せて関与の裏打ちをなす補助負担金も見直し、基本的に地域ごとの判断で一元化も可能とする方向での検討」を求めた。併せて、保育所の調理施設の義務付け廃止の検討を要請するとともに、当面、調理施設の防火構造の義務付け緩和の検討を提言した。
 このほか、民間企業・NPO等の多様な主体の幅広い参画による共助社会構築のため、@公設民営に関する周知A保育所の公設民営の促進B公設民営型ケアハウスの整備促進―などを提言。また、必置規制の見直しとして、保健所長の医師資格要件の廃止を提言するとともに、@児童相談所・児童福祉司を含めた児童福祉サービスの在り方検討A社会福祉主事の規定の在り方見直し―を要請。さらに、審議会等の必置規制についても審議会等を目的別に区分した上で必置規制を全面的に見直すよう求めた。
 知恵とアイデアの地域間競争を視野に入れた国の関与見直しとして、@特別養護老人ホームのホテルコストの利用者負担A医療法人の理事長要件の緩和B保育所の職員・施設基準の見直し―などを提言。さらに、地方が主体的に事務事業が行えるための国の関与見直しとして、@公立福祉施設の整備に対する負担規定の補助規定化A福祉事務所設置等、児童相談所の建築等に要する費用負担に関する同意を要する協議の廃止B市町村の判断のみで給付可能な補装具の種目追加―などを提言した。

◆道路整備にローカルルール

 公共事業関係では、地域の実情に応じた道路整備推進のため「道路構造のローカルルールを導入する」とし、中山間地域に 1.5車線的道路手法の導入を提言した。また、直轄事業に係る国と地方の関係明確化の一環として、直轄事業負担金を徴収する直轄事業実施に当り地方自治体との事前協議制の導入の検討と、維持管理に係る直轄事業負担金の段階的縮減を提言した。このほか、@河川・道路の直轄管理区間の指定基準の法令化A地方自治体と地方部局との定期的会議の開催B地方整備局での公共事業に係る施設運営の共同点検のための機関設置―などを提言した。
 このほか、個別の課題として、@都市計画、農地転用の制度改正状況のフォローアップA特例市等への農地転用の権限移譲の検討B河川にかかる地方自治体からの意見等への対応状況の公表C下水道の維持管理の民間委託の促進方策の策定D地方自治体が自主性を発揮できる民有林管理の検討E廃棄物処理や広域的不法投棄に対する国の責任・関与の強化―等を提言した。また、公共事業関係長期計画等について、@補助事業の実施主体が地方であることに配慮A既存施設の維持更新・有効活用を重視B長期計画の基礎となっている緊急措置法等も検討―するよう要請。その上で、補助事業における国と地方の関係の明確化のため、公共事業再評価システムにおける補助金返還ルールの明確化と周知徹底を求めた。さらに、@複数省庁が所管する公共事業の調整システムの明確化A統合補助金の拡充と運用関与の改善、補助金等適正化法との関わりの点検―を要請した。
 産業振興関係では、農林水産関係の国庫補助負担金の廃止・縮減の検討を要請するとともに、農地面積の小さい農業委員会の広域連携や設置見直しを提言した。
 このほか、消防制度について、常備消防設置義務と救急実施義務市町村の政令指定制度の抜本的見直しをはじめ、地域の市町村以外の行政主体が消防・救急の事務を担うことができる仕組みの導入を提言した。また、市町村消防では実施困難な専門性・広域性を有する業務の在り方の検討も求めた。さらに、@消防の広域再編の推進A消防力基準の見直しB社会環境の変化を踏まえた消防団の在り方検討―を要請した。

(自治日報社 井田正夫)