町村自治の発展を支える

財政制度の構築に向けて

 

〜地方交付税制度のあり方について〜

 

平成16年12月

 

                                  全国町村会

 

1.はじめに

 

 全国町村会は、これまで機会をとらえ、市町村合併に関連し、国土の約7割

を占める農山漁村地域の役割を重視し、その地域の経営主体としての町村の見

解を表明してきました。

 また、私たちは、全国で「強力に推進」されている市町村合併について憂慮

してきました。農山漁村の将来とそこで成り立つ基礎自治体のあり方に関し、

人口規模にこだわり、少子化の影響等で苦境に立つ農山漁村に関する新たな展

望や基本政策を示すことなく、小規模というだけの理由で町村を解消しようと

しているように思えるからです。

 大地に根を張り、地域の資源を最大限に活用しながら暮らしてきた住民の営

みをないがしろにするような改革は、いかなるものもその名に値しません。地

域の多様性を尊重せず、自立と尊厳の精神を否定するような市町村合併の推進

は、地方自治の理念に逆行するものであり、ひいては我が国の将来に大きな禍

根を残すと考えます。 

  

 全国町村会のこれまでの提言 ---------------------------------

  平成13年 7月 「私たちは提言します。21 世紀の日本にとって、農山村が、なぜ大切

            なのか―揺るぎない国民的合意にむけて―」

  平成14年11月 「いま町村は訴える」

  平成15年 2月 「町村の訴え〜町村自治の確立と地域の創造力の発揮」

  平成15年12月 「町村からの提言〜市町村合併と分権改革・三位一体の改革について」

   -----------------------------------------------------------------------------------

 

 この点を改めて強調した上で、このたびは、三位一体の改革、特に地方交付

税改革のあり方に関する私たちの見解を広く国民各界各層の皆さんに訴えたい

と思います。

 三位一体の改革は、分権改革の第2ステップというべき国税から地方税への

税源移譲を実現するため、国庫補助負担金の廃止と地方交付税の見直しを行お

うとするものであり、そのゆくえは、間違いなく町村の財政運営さらには町村

自治の将来に大きな影響を与えるからです。

 

 

2.三位一体の改革と地方六団体の「国庫補助負担金等に関する

改革案」

 

 地方六団体は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」【資料1】

に基づく、政府からの要請に応え、国と地方公共団体との信頼関係を確保する

ための一定条件を前提に、平成17,18年度における3兆円規模の税源移譲に見

合う国庫補助負担金廃止の具体案「国庫補助負担金等に関する改革案」【資料2】

を取りまとめ、本年8月24日に内閣総理大臣に提出しました。

 この改革案では、税源移譲や地方交付税のあり方、国庫補助負担金改革と車

の両輪とも呼べる国による関与・規制の見直しに関する具体例を含む、幅広い

提案を行っています。

 

3.地方六団体の決心と「改革案」の意義

 

 国庫補助負担金の改革案には、「国庫補助負担金等改革案提出に当たっての

共同声明」【資料3】や国と地方六団体との間で設けられた「国と地方の協議の

場」で示した「協議にあたっての基本姿勢」【資料4】で述べているように、自

主・自立に向かおうとする地方公共団体側の並々ならぬ覚悟があるのです。

 自治体が、住民の身近なところで責任をもって政策と税金の使途を決定・実

施していく体制を築くには、これまでのように財源を国のひも付きで「配る」

ことから歳入・歳出両面での自由度を高める方向へ財政システムを転換させる

必要があり、その核心は税源移譲にあります。同時に、税源移譲が行われても、

移譲額が国庫補助負担金廃止に伴い財源措置すべき額に満たない地方公共団体

については、地方交付税等の算定等を通じて確実に財源措置を行う必要があり

ます。それこそが三位一体改革の意義だといえます。ですから、地方六団体は、

税源移譲に見合った相当額の国庫補助負担金を十分検討の上、廃止する提案を

したのです。

 

4.全国町村会のこれまでの主張

 

 私たち全国町村会は、これまで、町村財政基盤の確立に向けた分権時代にふ

さわしい地方税財源の充実強化について、次の諸点を、関係各方面に要請して

きました。

 

 @ 自治体の歳出規模と地方税収との乖離を縮小し、住民の受益と負担の対

  応関係をできる限り明確化できるようにすること。そのために国の基幹税

  を地方税へと移譲し、自治体の歳入に占める自主財源の割合を高め、自治

  体の財政運営における自己決定・自己責任を拡充すること。

 

A 地方税源充実に伴う国の地方への移転的支出の削減は、まず国の関与の

強い特定財源である国庫補助負担金を対象とすること。国庫補助負担金は

真に必要なものに限定するとともに、国庫補助負担金の整理に当たっては

単に地方への負担転嫁をもたらすようなことは絶対にしないこと。

 

B 税源移譲の検討に当たっては、人口が少なく課税客体に乏しい町村の実

情に十分配慮すべきであり、そのためには地方交付税のもつ財源調整・財

源保障機能の充実強化を図る必要があること。また、人口に比べ広い面積

を有し、国土保全等公益的な役割を果たしている町村の実態を反映した基

準財政需要額の算定を行うこと。

 今回の提案は、こうした私たちの主張に大筋で合致するものであると考えます。

 

5.「改革案」に対する意見・批判等への所見

 

 地方六団体が提案して以来、「国と地方の協議の場」をはじめ、関係各方面か

ら「改革案」に対する様々な意見や批判等が出されています。これらについて

私たちの所見を述べておきたいと思います。

 

(1)関係各省の意見等

 

 関係各省は、六団体の改革案に対し、「事業の適切な実施を確保するには国の

支援が重要だ」、「全国的に一定のサービス水準の整備・維持・向上には国の援

助は欠かせない」、「基準を示し義務を課すだけでなく実際の義務履行に対する

財政的援助をセットにしないと一定の取り組みの実効性を担保できない」、「一

定水準のサービスをどの地域においても格差なく保障する国の責任が果たせな

くなる」など、これまでと同様に分権改革反対の常套句を繰り返しています。

 しかも、財務省は、地方交付税算出の根拠とする地方財政計画に7 〜 8 兆円

の「過大計上」があるとして、平成17、18 年度にこれに対応した地方交付税を

大幅に削減すると表明しています。地方財政計画の約1割、地方交付税の約5

割にも及ぶ地方歳出に関して、一方的に「過大計上」と決め付けているのです。

さらに、地方交付税の使い途についても無駄遣いであるかのように批判してい

ます。

 

(2)意見・批判等に対する見解

 

 国庫補助負担金は、国と自治体が協力して事務を実施するに際し、一定の行

政水準の維持と特定の施策の奨励のための政策手段として機能するものと考え

られてきました。国と自治体が対等・協力の関係を築いていく中で、こういう

機能をすべて否定することはできないでしょう。

 しかし、他方で、国と自治体の責任の所在が不明確になりやすく、また細部

にわたる補助条件や煩瑣な交付手続きなどが、行政の簡素・効率化や財政資金

の効率的な使用を妨げる要因になっているということの他に、なんといっても、

国庫補助負担金の交付を通じた各省庁の関与が、自治体の地域の知恵や創意を

生かした自主的な行財政運営を阻害しがちであることが問題なのです。

 

 住民自治を基礎として活力と個性のある分権型社会を実現していくのは容易

なことではなく、固い岩盤に穴をあけていくように、一歩一歩、粘り強く進ん

でいくしかありません。平成12(2000)年4月に地方分権一括法の実施に結実

した第1 次分権改革によって、自治体は、建前上は、国と対等な関係に立つこ

とになりました。たしかに機関委任事務の全廃により、自治体の事務から国の

事務がなくなったことは大きな前進でした。

 

 しかし、使途が限定され、自治体の一般財源を使って裏負担ないし義務的な

支出をしなければならない国庫補助負担金の改革は思うようには進まず、自治

体の政策選択と支出の自律性は、相変わらず制約されつづけています。これま

で、自治体側にも、国庫補助負担金は使途が定まっているし、あれこれ考えな

いですむから明確で使いやすい、といった受け取り方がなかったわけではあり

ません。しかし、そうした考え方を克服して行こうと決心しているのです。

 

 すでに自治体は平成16年度予算で財源削減のしわ寄せを受けました。三位

一体の改革で財政的に潤うとか財政難が解消できるなどと思っている自治体な

どありません。むしろ、私たちは、改革など名ばかりで、単に負担を地方に転

嫁するような国庫補助負担率の引き下げの動きを警戒しています。

 それでも、分権型社会を自ら招き寄せるために自治体側は、国庫補助負担金

の廃止を決断したのです。三位一体の改革は、国と地方の「カネの取り合い」

では決してなく、「カネを通じての国の統制と地方の依存」の体制を打ち破って

いくために不可欠なのです。それは、国と地方の関係を上下・主従から対等・

協力へ転換していこうとする分権改革の正道といってよいと思います。

 

 補助負担金とその実施要綱・要領で自治体を縛らなければ安心できないとい

うのは時代遅れの発想です。住民と協働しながら、効率化に徹し、創意工夫を

こらして政策責任を果たそうとする自治体を信頼しなければ、分権型社会など

はやってこないというべきです。

 それにしても、三位一体改革の機に乗じて、到底、無視できない地方交付税

見直しの動きが出ていることに対しては、項を改めて、私たちの見解を述べる

こととします。

 

6.地方交付税改革のあり方について

 

(1)容認できない地方交付税見直し論

 

  地方交付税の一方的な削減の動きの背景には、特異な地方交付税見直し論

があります。財務省や財政制度等審議会、地方分権改革推進会議などは、ここ

数年、「ナショナル・ミニマムはすでに達成したのに地方交付税は膨張し続け

ている、住民が負担しない地方交付税はモラル・ハザードを起こしている、地

方交付税があるから地方は自立できない」と主張しています。

  しかし、これほど乱暴な議論はありません。

  @ まず、地方公共団体が果たしている役割は、主として生活関連の社会資

   本整備と住民に身近な行政サービスの供給であり、かりに一定の水準に達

   したとしても、社会資本の維持・管理、サービス供給のための経常的経費

   が必要となります。国民所得が上昇すれば、ナショナル・ミニマム、ナショ

   ナル・スタンダードの水準が上昇することも当然です。

 

  A また、地方交付税の交付を多く受けている地方公共団体がモラル・ハ 

   ザードを起こしているという議論も事実をとり違えています。事実、財政

   力の弱い自治体ほど徴税努力も行い、行政改革にも取り組んでいます。

    そもそも地方交付税は、国庫補助負担金と異なり、使途の限定されない

   地方の一般財源であるにもかかわらず、例えば「結婚祝い金」や「敬老祝

   い金」などを「不適切」ないしは「無駄遣い」であると一方的に決めつけ

   ていますが、「結婚祝い金」には、住民の定着や人口の増加を図り、過疎化

   や少子化への歯止めを願う地域の切実な思いが込められています。

    また、「敬老祝い金」も、家族や近隣の住民が地域ぐるみで喜びを分かち

   合うことによる、地域の連帯意識の醸成につながるものです。しかし、こ

   のような施策も、厳しい財政事情の前に取り止めざるを得なくなっている

   のが実情です。

 

  B さらに、問題なのは、「地方の自立」、「自立的財政運営」、「受益と

負担の明確化」などの概念が一人歩きし、住民の生存権の保障という自治

体本来の目的が後景に退いてしまっていることです。

 

このような地方交付税見直し論に共通しているのは、脆弱な税収基盤しか持

たない市町村が、大都市部の所得税・法人税を恵んでもらっているというよう

な理解です。しかし、こうした理解はきわめて表面的なものと言わざるをえま

せん。平成16年3月現在、国土の7割は町村で占められており、多くが地方

圏、中山間地域、過疎地となっています。一方、町村人口は全国の2割を占め

るにすぎません。

 

  しかし、そこでは、ダム、発電所や産業廃棄物処理場などの施設が産業を支

え、第ー次産業は食料供給の役割も担っています。また、森林、里山などの自

然環境がもつ様々な公益的機能は、京都議定書の発効が決まったことも加わり、

ますます重要になっています。さらに、文化的伝統的価値を持つ農山漁村や水

田を保全することは、都市住民が求める都市と農山漁村の共生と対流を実現す

る上でも重要です。

 

  こうした機能は、そこに住む人々の営みによって十全に発揮されるのであっ

て、その人々の生活に必要な公共サービスを最終的に保障していくのが地方交

付税なのです。

  地方交付税の原資となる国税とりわけ所得税、法人税などの所得課税は、全

国土が果たすこうした役割を利用して成り立っているのであり、たまたま大都

市所在の本社がその多くを申告納付しているに過ぎないものです。その税収は、

決して大都市部だけの経済活動から生じたものではありません。

 

(2)改めて強調したい地方交付税の意義

 

  そもそも、地方交付税は、どのような役割を果たしているのでしょうか。

  地方公共団体は、多方面にわたる公共サービスを供給し、福祉国家、文化国

家の重要部分を担っています。そのうち国民に最低限提供すべき基本的、標準

的な行政水準を基準財政需要額として算定し、地方税で賄えない部分を補てん

するのが、地方交付税の役割です。

 

  財政力の格差があっても、基本的、標準的サービスを提供するのは、どの地

域に居住する住民に対しても、憲法に規定された生存権を保障することであり、

地方公共団体は、規模の大小はあっても、その役割を果たしていかねばなりま

せん。

  その際、個々に使途は限定せず、地方税と地方交付税で基本的、標準的サー

ビスの財源を保障することは、地方公共団体の創意工夫を最大限尊重しようと

する地方自治の理念を実現するものと言えます。

 

  このように、地方交付税は、決して地方財政の赤字を補てんするために存在

しているのではありません。財政力格差があっても国民であれば基本的、標準

的サービスを受けることができるようにすること、これが地方交付税の財源保

障機能と財源調整機能を通じて実現されるわけです。

 

(3)地方財政計画のあり方

 

  地方財政計画は、国民の生活にとって基本的、標準的な公共サービスの大部

分を自治体が担っているという事務配分の下で、自治体がその実施に必要とす

る財源を安定的に確保できるようにすることを目的としています。もともと地

方財源確保の方策を確定するに際しては、財務省と総務省の協議や地方六団体

等からの要望を勘案するなど、多くの努力が積み重ねられてきました。しかし、

その大幅な削減が一方的に宣言される状況が生まれています。

 

  こうした状況は、分権の掛け声とは裏腹に、新たな集権の動きと言うべきもの

であり、あらためて地方財政計画策定過程の改革を提起しなくてはなりません。

  何よりも国と地方の協議の場の設定、全プロセスの透明化が必要です。

  また、地方財政計画(平成14年度)の中で5兆円の「過大計上」とされてい

るのが投資単独事業ですが、これは、国が長年にわたって公共事業を地方に消

化させるよう、地方財政計画を使って政策誘導してきた結果という側面を持っ

ています。

 

  地方財政計画と決算(平成14年度)との乖離を問題とするならば、一般行政

経費が6 兆9 千億円の「逆乖離」となっていることに注目する必要があります。

そのすべてを不適切な支出と決めつけることは、この間、血の出るような行政

改革を進めてきた地方の努力を無視するものであり、また福祉、教育など民生

サービスでの責任が高まるにつれて必然的に増加する一般行政経費の財源保障

を危うくするものと言わねばなりません。

 

  地方財政計画の見直しについては、昨年行われたような地方単独事業の大幅

な削減といった一面的な見直しではなく、地方における医療・福祉・環境・教

育等の施策の取組みや決算状況の実態を踏まえ、投資から経常への需要構造の

変化を的確に地方財政計画に反映させるなど、適切な見直しを行うことが必要

です。

 

  公共事業は、本来、分権化を推進することで、地域の特性を活かした事業の

展開が最も期待される分野と言えます。地域再生、中山間地域や農山漁村の公

益的機能の発揮という視点を踏まえ、分権時代にふさわしい地域の実情にあっ

た効率的な公共事業の実現へ向けて、確実な財源措置が必要となっています。

 

(4)地方交付税制度改革のあり方

 

  以上のように、地方交付税は、その財源保障機能と財源調整機能をいっそう

強化していかねばなりません。しかし、同時に改革すべき点があることも事実

です。

  まず、何よりも、使途を特定されない地方税と地方交付税で地方自治を財源

面から保障するというシャウプ勧告の理念に立ち返ることです。そのためには、

交付税の補助金化をもたらしたと言われる交付税措置を段階的に縮小していく

ことも必要です。

  その上で基準財政需要額については、民生サービスへの取り組みや決算の状

況など地方の実態、住民ニーズを踏まえて、改善することが必要です。その際、

まず算定基準について、投資偏重の改革、経常面での需要の的確な把握が求め

られます。

 

  また、過疎地の一人当たりの行政費用は必然的に高まらざるをえず、これを

反映した補正措置が不可欠です。さらに、制度が複雑だからと言って、算定基

準を人口や面積だけに単純化することは、町村や中山間地域の地理的特性を無

視することにつながると考えます。

  地方交付税の改革を考えるに当たって、確認しておかねばならないのは、国

税5税に支えられた地方交付税が、地方の固有財源としての性格を有している

ことです。ところが、国税5税の原資(入口ベース)と地方交付税所要額(出

口ベース)が乖離している状況をとらえ、前者のみを固有財源とし、財源不足

額を借入金でまかなっている部分をあたかも予算編成過程で裁量的に削減でき

るかのように位置づける考え方が一部で流布しています。

 

  昨年の地方分権改革推進会議の試案等がこの類いであり、今日の財務省の

「過大計上」論も根っこは共通していると言えるでしょう。しかし、そもそも、

地方交付税法第6条の3第2項では、入口ベースと出口ベースが著しく乖離し

た場合は、原資となる国税の交付税率を改訂すべきことが規定されています。

  その本来あるべき改訂を放置したまま暫定措置として借入金に依存している

にもかかわらず、借入金依存部分をあたかも裁量で削減できるかのような言動

は、法の趣旨にも反するものです。あらためて地方財政の実態に即して、地方

交付税法に基づく交付税率の引き上げを求めます。特に、今回の改革によって

所得税による税源移譲が実現した場合の地方交付税の原資の減少については、

地方交付税の法定率の引き上げによって対応すべきです。

三位一体の改革の進展とともに、地方交付税に関して、新たに留意すべき論

点も浮上しています。

 

  第1は、税源移譲に伴って、不交付団体が増加し、大都市を中心とした特定

の自治体への税収の偏在があらわになる恐れです。地方圏の町村、中山間地域

の果たす公益的機能などの役割を踏まえて、あらためて再配分する仕組みが検

討されてしかるべきです。

  第2は、市町村合併の進展に伴って過疎地など条件不利地域の統計的把握が

困難になることが予想されることです。旧市町村レベルでの基本統計の作成を

継続するなど、実態に即して地域的条件を把握し、特別な財政措置を講ずる仕

組みを作っていくべきです。

 

(5)国は財政責任を果たせ

 

  国は、プラザ合意以降の内需拡大策、公共投資基本計画、バブル崩壊後の景

気対策を実施するために、地方財政を最大限に動員してきました。それに応え

ようとした自治体に対して約束した交付税措置や各種の財源措置は、今後確実

に実行していく責任があります。また、苦渋の選択を強いている市町村合併に

ついても、合併特例債の財源措置を確実に実行すべきです。

 

  公共事業関係補助金は削減しても、財源が建設国債だから移譲財源がないと

いう財務省の主張は、もともと国が公共事業の財源調達のあり方を決めたこと

であり、極めて非常識な議論と言わざるをえません。また、現に大きく不足し

ている国税5税の交付税原資のみを地方固有財源とする見方も国税5税の減収

や交付税率の改訂を国が放置した結果生じたものと言えます。現在の財政事情

は、国が地方に対してモラル・ハザードや「過大計上」と一方的に論難する状

況ではなく、むしろ、国こそが減税を続けながら膨大な収支ギャップを放置す

るというモラル・ハザードを起こしていることが反省されるべきでしょう。

  

私たちは、国の財政再建の手段としてのみ三位一体の改革を位置づけるよう

な動きに反対します。

  国は一方的な歳出削減や負担の地方転嫁に走ろうとするのではなく、みずか

ら財政再建の道筋や実効性のある国の行政改革目標を明示し、国民に対する責

任を全うすべきです。

 

7.おわりに

 

 自治体と国が信頼関係を維持し、着実に三位一体の改革を完遂するためにも、

地方交付税制度が国民一人ひとりの生活を保障している視点を決して忘れては

ならないと思います。

 

 三位一体という大きな改革が進められようとしている時だからこそ、地方交

付税の安定的な確保が不可欠であることを、改めて国民の皆さんに訴えたいと

思います。

 

 

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【資料1】

 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」(16年6月4日閣議決定)より

 

 ・「基本方針2003」に掲げられた基本的な方向に沿って、三位一体の改革に関する政府・

  与党協議会の合意(平成15年12月)を踏まえつつ、三位一体の改革を着実に推進していく。

 ・地方が自らの支出を自らの権限、責任、財源で賄う割合を増やすとともに、国と地方を

   通じた簡素で効率的な行財政システムの構築につながるよう、平成18年度までの三位

   一体の改革の全体像を平成16年秋に明らかにし、年内に決定する。

   その際、地方の意見に十分耳を傾けるとともに、国民への分かり易い説明に配意する。

  ・全体像には、以下の点に留意しつつ、平成17年度及び平成18年年度に行う3兆円程度

   の国庫補助負担金改革の工程表、税源移譲の内容及び交付税改革の方向を一体的に盛り

   込む。そのため、税源移譲は概ね3兆円規模を目指す。その前提として地方公共団体に

   対して、国庫補助負担金改革の具体案を取りまとめるよう要請し、これを踏まえ検討する

 

【資料2】

 「国庫補助負担金等に関する改革案」(16年8月24日地方六団体)の概要

 

  1 改革案を提示するに当たっての前提条件

  (1)国と地方の協議機関の設置

     国と地方六団体等との協議機関を設置し、「三位一体の改革」に地方の意見を確実

     に反映することを担保

  (2)具体的な前提条件

     @税源移譲との一体的実施、A確実な税源移譲、B地方交付税による確実な財政措

     置、C施設整備事業に対する財政措置、D負担転嫁の排除、E新たな類似補助金の

    創設禁止、F地方財政計画の作成に当たっての地方公共団体の意見の反映などを

    確実に実行することが、この提案の前提条件

 

  2 「三位一体の改革」の全体像

  (1)地方分権推進のための「三位一体の改革」

   ・地方分権の理念に基づき、住民の意向に沿った行政運営を行う改革

   ・第1期改革(18年度まで)に続き、第2期改革(19〜21年度)が必要

  (2)「三位一体の改革」の全体像

   @ 国から地方への税源移譲【8兆円程度】

   A 国庫補助負担金の見直し【△9兆円程度】

   ※道路目的財源の地方譲与税化、道路関係国庫補助負担金の廃止について別途検討

   B 地方交付税の見直し

 

  3 平成17年度及び18年度における国庫補助負担金等の改革

  (1)移譲対象補助金の規模

   ・移譲対象補助金【3.2兆円】

   ・税源移譲額【3兆円程度】

     ※平成16年度削減分(約1兆円)については、別途税源移譲

  (2)移譲対象補助金の内容(内訳)

    @ 経常的な国庫補助金【0.6兆円】

    (例)協同農業普及事業交付金、小規模企業等活性化補助金

   A 経常的な国庫負担金【0.6兆円】

    (例)保健事業費等負担金(保健事業費負担金)、公営住宅家賃対策等補助

   B 施設整備に関する国庫補助負担金【0.6兆円】

    (例)公立学校施設整備費負担金、廃棄物処理施設整備費補助

   C 公共事業等投資的な国庫補助負担金【0.6兆円】

    (例)農道整備事業費補助、河川改修費補助

   D 義務教育費国庫負担金【0.8兆円】中学校教職員給与費相当分

  (3)税源移譲

   ・個人住民税の10%比例税率化により、所得税から住民税へ3兆円程度移譲

  (4)国庫補助負担金廃止の前提となる地方交付税による財源措置

   ・税源移譲が行われても財源に乏しい団体について、地方交付税の算定等を通じて

      確実に財源措置を行う必要

  (5)国直轄事業負担金の廃止

   ・国直轄事業負担金は廃止すべき、維持管理費は早急に廃止すべき

  (6)国の行財政改革の断行と地方行財政の更なる効率化

   ・改革を通じて不要となる膨大な事務処理に応じ、国家公務員の配置を見直し、国

      本来の事務に専念

   ・地方も一層の行財政改革を推進

 

  4 国による関与・規制の見直し等

   「三位一体の改革」を推進する車の両輪として、国庫補助負担金の改革に併せ、国に

    よる関与・規制の見直しを行う必要(具体的事例を明示)

 

  5 移譲対象補助金としない国庫補助負担金

   @ 国庫委託金、税の代替的性格を有するものなど税源移譲になじまないもの

   A 国家補償的性格を有するものなど本来国で実施すべきもの、特定地域の特別の事情

    により講じられているもの

   B 災害復旧に係るもの

   C 社会保障関係の負担金のうち、格差なく国による統一的な措置が望まれるもの(生活

    保護、児童扶養手当など)や、制度全般の見直しの中で検討すべきもの(老人医療、

    国民健康保険介護保険など)

 

【資料3】

 「国庫補助負担金等改革案提出に当たっての共同声明」(16年8月19日地方六団体)

 

   地方六団体は、6月4日の「基本方針2004」の閣議決定に基づく政府からの要請を

  真摯に受け止め、我々の提示する一定条件の受け入れを前提に「国庫補助負担金等に関

  する改革案」を取りまとめた。「小異を捨て大同につく」という観点に立ち、共同案とし

  て提示することができたことは、「真の地方分権改革」を推進するという我々の強い姿勢

  を示すものである。

   よって、国においては、地方分権の推進に関する国会決議や地方分権一括法の施行に

  至った経緯及びこれらが国民の総意に基づくことを改めて確認するとともに、この改革

  案とこれに込めた我々の思いを真摯に受け止めるべきである。今後、誠意を持って地方

  六団体との協議を進めながら、改革の全体像を速やかに提示し、平成17、18年度の改革

  を着実に推進するとともに、平成19 年度以降も更に、地方分権改革の本旨にかなった

  改革を行うよう、強く求める。

 

【資料4】

 「協議に当たっての基本姿勢」より(16年9月14日地方六団体)

  1 このたび、地方六団体が結束し、立ち上がったのは、従来型の陳情・要望団体から

    脱却し、三位一体改革を契機に地方から日本を変える同志として結集したものである。

  2 今回、我々が提案している改革案は、それぞれの立場における損得勘定をこえて、

   国のため「小異を捨てて大同につく」精神で、一本化を図ったものである。

 

 

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◇作成協力者◇

 

  大 森   彌   千葉大学教授・東京大学名誉教授

  金 澤 史 男   横浜国立大学教授

                          (順不同・敬称略)