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長野県野沢温泉村/通年型マウンテンリゾートへの取組とウェルビーイングビレッジのむらづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年5月29日

2023-24シーズン開業100年を迎える野沢温泉スキー場

▲2023-24シーズン開業100年を迎える野沢温泉スキー場​​​


長野県野沢温泉村

3241号(2023年5月29日)
長野県野沢温泉村 観光産業課 課長  竹井 勝


1.野沢温泉村の概要

長野県野沢温泉村は、長野県の北部、新潟県境に位置し、標高1650mある毛無山の裾野およそ標高600mに温泉街が広がる「スキーと温泉、そして野沢菜の故郷」として、古くから多くの人々に親しまれている湯の里です。

野沢温泉村が「湯山村」として歴史に現れてくるのは、鎌倉時代中期の文永9年(1272年)が最初であり、江戸時代初期にはすでに24軒もの宿屋があったといわれ、古くから温泉地として栄えていた本村は、その後、明治45年(1912年)に飯山中学校の生徒であった村出身者が初めてスキーを滑り、大正12年12月(1923年)には野沢温泉スキー俱楽部が発足、翌13年1月には野沢温泉スキー場が開業、スキー場の開発とスキーヤーの誘致、宣伝により、温泉とスキーを中心としたむらづくりが始まり、来シーズンには野沢温泉スキー場開業100周年を迎えることとなります。​

2.悪条件の化学反応⇒スキーによるむらづくり

野沢温泉村は、ひと晩で1mも雪の降る日本有数の豪雪地帯であり、周囲を山々に囲まれ、すり鉢の底に集落があるようなところです。冬季間は半年近く雪に閉ざされるため、以前は「出稼ぎ」に出る人が大半で、かつて雪は暮らしに不便を強いるやっかいなものでありました。

日本にスキーが入ってきたのが明治44年(1911年)、翌年には野沢温泉にシュプールが描かれ、「豪雪」と「急傾斜地の山に囲まれた村」という2つの悪条件が化学反応し、「雪を観光資源にして、スキー産業での発展を」のむらづくりの原点が生まれました。

大正12年に発足した野沢温泉スキー俱楽部によるスキー場開発は、昭和3年に、現在のミディアムヒル規模のジャンプ台「野沢シャンツェ」が完成、昭和5年には第5回明治神宮スキー大会(現在の国体に相当)の開催と競技スキーの中心地として着実にグレードアップが図られていきました。

終戦後の昭和25年には、国内で3番目、民間では草津に次いで2番目となるリフトが日影ゲレンデに計画され、小雪の舞う中、200mにもおよぶワイヤーを小学生から大人まで村人総出で運び上げ、12月21日に野沢温泉の第1号リフトが完成、スキー俱楽部が積極的にスキー場経営に乗り出し、昭和38年にスキー場経営を村に移管するまで7つのリフトを建設、スキー場の整備拡充が図られてきました。

昭和30年代後半になると、高度経済成長によりスキーをレジャーとして楽しむ傾向が強まり、全国各地にスキー場がオープン、野沢温泉にも大手企業等から開発や土地買収の打診が相次ぐようになってきました。

100年の年月を経て国内最大級のスノーリゾートに
100年の年月を経て国内最大級のスノーリゾートに​  

その頃すでにスキー場は、スキー俱楽部という住民自らがリフト建設やスキー場経営をするという他に類を見ない40年もの歴史があり、この歴史と伝統を守るべくスキー場の管理経営権を無償で村に移管、スキー場の開発、経営などのハード部門は村が、選手育成や大会開催などのソフト部門はスキー俱楽部が行うという車の両輪の関係が成立し、その後村営スキー場として開発が進められ、ピーク時にはゴンドラリフト2基を含む29基ものリフト・ゴンドラリフトを擁す国内最大級のスノーリゾートとして発展してきました。(現在は指定管理者制度により民営化、土地や施設の保有、施設整備は村が、それを借り受け「株式会社野沢温泉」が運営を行う上下分離方式を採用、リフト・ゴンドラ20基)

3.スキー産業を活用した人材育成

昭和46年(1971年)、本村と縁の深い故ハンネス・シュナイダーの故郷であるオーストリア・チロル州サンアントン村と姉妹村提携を結び、オーストリア国立スポーツ研究所との技術交流やスキー教師の交換研修、両村中学生や村民の交流を進めてきました。

そういった成果等もあり、本村には世界的なウインタースポーツ競技大会で上位選手を輩出してきた伝統があります。例えば、本村約3,500人から16人ものオリンピック選手が輩出され、総人口に占めるオリンピック選手比率は日本一であり、トップのウインタースポーツアスリートを安定的に輩出してきたスポーツ環境は日本屈指のものであります。

こうした環境を支える人材育成の取組のひとつとして、野沢温泉村では平成25年4月、「幼保小中一貫教育」を行う野沢温泉学園を開園し、地域性を生かした教育活動(英語学習やふるさと学習など6つの柱)として、教育課程特例校の認可を受けたスキーの楽しさを味わう「スキー科の学習」を実施しています。

野沢温泉学園スキー科の授業風景
野沢温泉学園スキー科の授業風景  

スキー科は、スキーを村の基幹産業とし、16名のオリンピック選手を輩出している野沢温泉学園ならではの教育課程であり、スキー科として年間30時間、こども園の年長から中学3年生までの10年間、単なるスキー授業ではなく、保護者や地域指導者が一体となった一貫指導体制を整え、学園の全ての子どもが楽しくスキーが滑れ、生涯にわたってスキーやスノーボードに親しむことを目指しております。そして、本村出身者はスキーまたはスノーボード経験者であり、村全体を挙げて未来のウインタースポーツ産業を担う人材育成にも取り組んでおります。

4.スノーリゾートからマウンテンリゾートへ

スポーツを活用したまちづくりを着実に継続して進めていくために、これまで野沢温泉村、(株)野沢温泉(スキー場運営会社)、観光協会、旅館組合、商工会など自治体と民間団体が一体となって実施してきた観光産業の取組を、総合戦略の実施主体、事業の受け皿となるべく、令和5年度中に迅速な意思決定と地域観光の担い手組織となる地域観光DMOを設立し、本村の特色あるスポーツ資源、地理的および自然的特性を活用し、春季から秋季までのマウンテンスポーツ振興、冬季のウインタースポーツ振興による通年型マウンテンリゾートへの転換、推進が求められています。

温泉はあるものの、冬季に比べ夏季観光の振興は長年の課題となっており、夏季のマウンテンスポーツ振興としては、すでに平成29年に日影ゲレンデにオープンした「野沢温泉スポーツ公園」には、夏でもスキー・スノーボードが楽しめる本物の雪のような次世代スノーマット・ピスラボ仕様のサマーゲレンデ整備や最高時速70mのスカイアクティビティ、ジップ・スカイライド、小さなお子さまも安全に遊べる遊具を備えたナスキーパークを整備し、夏のアクティビティ充実を図り、令和4年度には隣接するインフォメーションセンター内の雨天でも遊べるナスキールームに熱中症対策としてエアコンを設置、雨の日のみならず暑い日も安心して遊べる施設を整備しております。

サマーゲレンデ 
全長500mのサマーゲレンデは、夏でも雪に近い感覚でトレーニングできる​  ​​

ジップ・スカイライド​    
空中大滑降、標高差122mを一気に滑り降りるジップ・スカイライド​ ​​

また、現在継続して整備を進めている毛無山を中心とする「やまびこエリア」には、山麓からのアクセスとして令和2年12月に世界最新鋭の10人乗りのゴンドラリフトを敷設。標高627mの山麓駅から毛無山山頂付近にある標高1,417mの山頂駅までの全長約3.2kmを所要時間8分で移動ができるようになりました。

山頂駅周辺には、季節ごとに楽しめる500種類以上の山野草・高山植物やウッドデッキ付きのテラスなどのフラワーガーデン・ロックガーデンなどの「上ノ平ピクニックガーデン」を整備し、軽装での散策も可能になっております。

長坂ゴンドラ 
長坂ゴンドラのキャビンは10名定員。マウンテンバイクも2~3台積載可能​  ​​

上ノ平ピクニックガーデン  
標高1400m付近に広がる上ノ平ピクニックガーデン  ​​

今後の整備計画としては、エリア内にあるスタカ湖キャンプ場についてグランピングなどの高付加価値化整備やアクティビティの設置、湖を利用してのカヌーやSUP(スタンドアップパドル)などこれまでの登山やハイキングだけではない遊びを提供し、特に子どもやファミリー層でも安全・安心に山で遊べるマウンテンスポーツの振興を目指しております。そして、毛無山山頂には遠くは日本海や佐渡島、北アルプスの山脈など360度の大パノラマを望める展望テラス「天空の展望台」建設も計画しております。

これまではハイカーや登山愛好家のみをターゲットとした散策路の整備に注力してまいりましたが、よりアクティブに活動する客層をターゲットにトレイルランやマウンテンバイクコース等の整備と併せ、令和3年から開催している「野沢温泉自転車祭」のように、山頂から山麓までのマウンテンバイクによるダウンヒルと山麓から山頂へのヒルクライムという全く違う要素の大会をひとつの山で開催できる野沢温泉村の山の魅力も発信しながら、県内外からさまざまなマウンテンスポーツによる誘客と通年雇用の拡大を図りながら移住定住促進にもつなげていきたいと考えています。

スタカ湖キャンプ場 
水上アクティビティが充実してきているキャンプ場は、さらにアクティビティを増やして2年後のリニューアルオー プンを目指している​  ​​

マウンテンバイクコース  
初級から上級まで幅広いコース設定がされたマウンテンバイクコース​  ​​

冬季は、これまで数多くの国際大会、国内大会の開催ノウハウを生かしながら、令和元年度から11年連続で開催する全国中学校スキー大会や他都府県単位のスキー大会、小学生から大学生までの各種スキー大会、国際大会としては障がい者スポーツのパラスポーツアジア大会や国際スキー連盟公認大会など通年で平均して20回以上のスポーツイベントの開催や各種学習旅行(小学校・中学校・高校等)など、さらに大会等の招致を継続して行うことで、ウインタースポーツ人材の育成、次世代を担う雇用創生も図ってまいります。​

5.ウェルビーイングビレッジの推進

本村には、これまで述べたスポーツ振興のほかに、温泉やパウダースノーの恵みといった豊富な自然環境、日本三大火祭りのひとつにも挙げられる道祖神祭りや湯沢神社灯ろう祭りといった伝統行事、代表的特産品である野沢菜漬けなど、村民生活に結びついた地域文化資源があり、スポーツ振興と併せこうした村民文化を未来へと継承していくことが、魅力と特性あふれるむらづくりの根幹を成していると感じております。​

道祖神祭り
日本三大火祭りのひとつ「道祖神祭り」​

最近では、国内外からのIUJターンによる移住者も多くなり、本村の自然環境や水にほれ込んだ移住者によって、クラフトビールやクラフトジン・ウイスキーの醸造所、カフェやレストランなど新たな観光資源、産業も生まれてきています。

温泉街に点在する13カ所ある共同浴場や足湯、そのほかの日本伝統建築と併せ、さまざまな顔を見せる温泉街の街並みがインバウンド観光客にも好評であります。

野沢温泉蒸留所
廃業した缶詰工場をリノベーションしオープンした野沢温泉蒸留所

四季を通じ、住民も観光客も村内の自然、遊び、スポーツ、食事、温泉等により自然と体を動かし、身体的・精神的・社会的に元気になる、「ウェルビーイングビレッジ」の推進に取り組み、中長期滞在による村民との交流やスポーツによるコミュニティー形成により、第2のふるさととして何度も再訪いただける関係人口、交流人口の増加を進めてまいりたいと考えております。

長野県野沢温泉村 観光産業課
課長 竹井 勝