ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村の取組 > 京都府和束町/人が輝き美緑あふれる「宇治茶」の郷づくり

京都府和束町/人が輝き美緑あふれる「宇治茶」の郷づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年3月9日
景観資産登録地域・白栖石寺地区の写真

景観資産登録地域・白栖石寺地区


京都府和束町

2672号(2009年3月9日)  和束町長 堀 忠雄


はじめに

和束町(わづかちょう)は京都府の最南端相楽郡(そうらくぐん)の東北部に位置し人口5,000人、面積64.87平方キロメートルの小さな農山村で、古くからお茶の町として発展してきた。周囲が山や茶畑に囲まれ、その中央部を和束川が東西に流れている緑豊かな農村空間で、その恵まれた地形は霧の発生や昼夜の寒暖の差が大きいなど香りのよいお茶の栽培に適した自然的条件を有しており、京都で生産される煎茶の4割を占める「宇治茶」の主産地にもなっている。

まちの人口は一時7,000人を超えていたが、その後は年々減少をし続け現在の人口となった。また、65歳以上の高齢者人口も既に30パーセントを超えており、数年後には40パーセントにも達しようとしている。

今回政府が推し進めた構造改革は小規模自治体にとって非常に厳しいものとなり、本町もその例外ではなかった。平成16年には議会において相楽郡内7町村の合併の議決を見たものの実現はせず、和束町や笠置町(かさぎちょう)、南山城村(みなみやましろむら)の東部3町村は合併から取り残された。3町村ともこのままでは厳しい財政状況にあることから第3の道を選択することとし、平成20年12月に3町村で広域連合を設立、多くの分野で行政の連携を目指すことになった。中でも4月1日より発足する連合教育委員会は全国でも初めての設立となり、他の小規模自治体からも注目されている。また3町村は、自然や文化、歴史そして観光に恵まれた中山間地域として共通しており、更に関西学術研究都市とも隣接していることから、これら広域行政に期待する住民は多い。特にこの地域は「宇治茶」の主産地であり、観光の町でもあることから、これらを融合した新しい観光産業の創出等において3町村の将来のまちづくりが見えてくる。こうした観点からも今後の広域行政の役割は非常に大きく、その流れのなかで本町のまちづくりを紹介した い。

「宇治茶」の郷づくりを通して町の活性化を

本町の基幹産業は先にも述べた通りお茶産業で「宇治茶」の主産地として広く知られている。しかしながら、今日では農家の高齢化や後継者問題が大きな問題となっており、魅力の感じる農業の振興と若者が定住し得る農山村づくりが喫緊の課題となっている。現在では、宇治市をはじめ近隣市町村と共に「宇治茶の郷づくり」に取り組んでおり、そのことを通して「宇治茶」の主産地としての独自施策も併せて取り入れながら町の活性化に努めているところであり、ここにその主な内容について紹介することにする。  

本町では早くから財団法人「和束町活性化センター」を設立し、お茶摘み体験ツアーの実施をはじめ宿泊施設京都府立和束青少年山の家や一流ホテルでの「和束産宇治茶フェア」の開催を通じて「和束茶」を使った料理の提供、更には「和束茶友の会」会員募集や和束茶缶ドリンク「わづか茶茶ちゃん」の製造販売など「和束産宇治茶」(和束茶)の普及に努めている。また、商工会においても「ほっこりサークル」の会員募集を行い「和束産宇治茶」の直送や茶園のオーナー制度にも取り組んでいるほかJAPANブランド育成支援事業を導入、和束産宇治茶が海外市場においても通用する高い評価を確立するため、地域の事業者などと連携しながら国内外の展示会への積極的な参加や販路開拓活動に努めている。一方、茶栽培農家で組織するNPO法人わづか有機栽培茶業研究会ではNPO法人日本国際ワークキャンプセンター(NICE)と共催で国際ワークキャンプを招致し、毎年8月下旬に16日間のワークキャンプを張っている。ワークキャンプには、日本の青年をはじめ世界各地から訪日する若者が中心で約20~30人が参加。キャンプ期間中は茶文化に触れるだけでなく、再生茶園の手入れ、学校訪問、周辺施設の整備・草刈などのボランティア活動や茶道体験、そして農業体験などにも参加、国際感覚あふれるまちづくりに貢献している。更にこの他にも年間約10回の社会人週末ワークキャンプ(1泊2日)の開催も行っている。このように国内はもちろんのこと、世界の各地とも交流を深めることは茶農家にとってその行動や活動が活発化し、内容にも広がりを見せている。特に和束商工会が平成15年からフランスパリへ「和束産宇治茶」として販路拡大を行った際も、このワークキャンプに参加したメンバーが現地ガイド兼通訳として商工会職員や茶農家といった販路拡大スタッフをサポートしてくれているなど大きな力となっており、着実に海外において「和束産宇治茶」のファンが増えつつあるという手ごたえを感じている。

「缶ドリンク・和束茶茶ちゃん」の写真

「缶ドリンク・和束茶茶ちゃん」はスッキリした味わい

国際ワークキャンプの様子の写真

国際ワークキャンプで国際感覚を養う

社会人週末ワークキャンプの様子の写真

年に10回の社会人週末ワークキャンプも開催

「和束の茶畑」が京都府景観資産第1号に登録

平成20年には「和束の茶畑」が京都府景観資産第1号に登録された。この制度は地域景観資産を再発見し情報発信するための住民の提案を受けて京都府が登録するもので、「宇治茶」の郷としての本町の農村空間を生かしたまちづくりとも合致する。またこの年は地方自治法施行60周年にあたり、これを記念して京都府が発行した記念切手にも「和束の茶畑」が採用されており、写真愛好家の中にも関心が広がってきている。さらに本町では平成19年9月に厚生労働省の認定を受けて「行ってみたい“茶源郷”づくりによる地域再生」に取り組んでおり、今回の景観資産の登録はこれら事業の推進において強い追い風にもなっている。特に現在取り組みを進めている農山村での雇用創出を目指した「和束町雇用促進協議会」の活動が活発化し、その成果の一つとして「和束茶カフェ」の開設となり、今では町内の住民の交流の場としてだけでなく、町外からも多くの方が訪れている。

フランス景観観光視察団訪日受け入れの様子の写真

フランス景観観光視察団訪日受け入れ

「和束茶カフェ」オープンで交流活動広がる

和束茶カフェの看板がお目見えした様子の写真

堀町長と森脇副町長の手で和束茶カフェの看板がお目見え

この「和束町雇用促進協議会」は平成18年に設立し町内での雇用の創出や拡大、確保に向けて活動しており、この程その一環として「和束茶カフェ」がオープン、これを機会に多くの住民やそのグループによる地域資源を生かした取り組み等を通じて交流活動が生まれてきた。ここにその主なグループと活動内容について紹介をする。

1.わづか国際交流会

「わづか国際交流会」は和束ブランドの商品の開発・考案を行いながら、それらの産物・商品を中心として国際交流を図ろうとする住民のグループである。このグループは、過疎が進み人口減少や高齢化が目立つ和束で団塊世代の再就職の機会や高齢者が活躍できる場所を確保し、「和束茶」という地域資源を活用した様々な地元ブランドの発掘、創造活動や観光開発への取り組みを行っている。また地域の歴史、文化を後世に伝える「語り部」など人材育成の活動と連携し、地域力を結集、地域の活性化や子供たちへの食育体験、世代間交流などの活動にも目を向け、「食」の大切さを通して地域での協働・連携を呼びかけている。

2.恋茶グループ

「恋茶グループ」は八百年の歴史がある和束町特産のお茶と自然に「恋する」という思いを込めて、町内8人の女性が生涯学習講座の受講を機に結成されたグループで、「お茶」を観光開発に活用しようと、特産品のお茶を生かした「町づくり」を目指してお菓子作りを中心に活動している。今では茶団子、お茶のケーキ、クッキーなどのお菓子10種類を開発し府内のイベントなどに出品している。

恋茶グループのお菓子づくりの様子の写真

恋茶グループのお菓子づくり

3.和束ティー・フレンズ

「和束ティー・フレンズ(NPO法人申請中)」は和束茶のおいしさを広く知ってもらおうと町内に在住する日本茶インストラクターのメンバーが中心に組織されたグループで、町内外に向けてお茶の正しい入れ方やおいしい入れ方について広く広報をするとともに教育活動やその普及に努めている。

4.和束の芸術家掘り起こし活動

「和束茶カフェ」のオープンにより、地域の人たちの作品が展示される機会ができ、結果として地域内の隠れた芸術家を発掘するきっかけとなった。これは地域の人達の自己実現をビジネスにできるという意識改革にもつながり、「心を豊かにする文化」と「生業を実現する茶産業」を融合することによって、生涯学習、自己実現など今までビジネスとして注目されなかった活動が新規事業として芽生えることにもなった。

また個展を開催することにより地元で活躍する芸術家たちの作品が多く紹介され、閲覧する人も次第に増えていることから、将来は「和束茶ギャラリー」の開設も検討されている。一方フォト・絵画コンテストの開催は和束町が芸術家・作家などの創作活動に適した地域であるとの認識を広く深めると共に、継続して取り組むことにより、芸術家・作家の卵が活動し育つ町としても期待されている。

「見る」・「食する」・「体験する」和束観光の確立に向けて

今後の和束町のまちづくりへの課題は基幹産業である「茶産業」と今後拡大を目指す「観光産業」との融和を如何に図るかにある。つまり伝統産業と新規産業の連携により広く都市住民との交流を促進し、宇治茶の郷・和束の魅力を引き出すかである。また恵まれた農村空間はその舞台であり、また学校であり、病院であり、福祉施設や文化施設でもある。そのようになってこそ「行ってみたい茶源郷・和束町」が見えてくる。先に紹介した取り組みはそれぞれそこに辿り着く一里塚のようなもので、実現に向けてゆっくりと、がっちりと力強く歩んでいきたい。

本町では農山村の恵まれた地域資源を生かしたまちづくりについて日頃から大学との連携を進めており、実践と研修の場として交流を深めている。特に最近では神戸夙川(しゅくがわ)学院大学と「観光振興に関するパートナーシップ協定」を締結したところで、「茶産業」と「観光」の融合に期待をしたい。

日本の将来は農山村の頑張りに掛っていると言っても過言ではなく、そういう意味からも今後共あらゆる方面より農山村に目が注がれるべきで、またそのように願って、本町としては農村の復活をかけて「宇治茶」の郷・和束の実現を目指して行きたい。

和束の茶畑の様子の写真

「宇治茶」の郷、和束の茶畑はふるさとの宝