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埼玉県鷲宮町/アニメを活かした町おこし~地元とファンの交流を成功に導いたものとは~

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年3月2日
平成21年の鷲宮神社の初詣の写真

平成21年の鷲宮神社の初詣の様子。参拝客の列は鷲宮駅の方まで延びており、時間によっては参拝するまでに2時間以上かかった場合も。「らき☆すた」ブームを受けて初めての初詣となった昨年は前年比17万人増の30万人を記録したが、本年はさらに12万人増の42万人となり、埼玉県第2位の参拝客数となった。


埼玉県鷲宮町

2671号(2009年3月2日)  全国町村会広報部 岩本 明久


町の概況

 鷲宮町は都心から1時間、埼玉県の北東部に位置する面積13.9平方km、人口約3万5,000人の町であり、町の西側に位置する、関東最古の神社である鷲宮神社の門前町として発達してきた歴史を持つ。かつては古利根川の水利の便を活かした農耕地帯だったが、昭和40年代以降、社会の変化および東京から50㎞圏内に位置することに50よるベッドタウン的需要もあって人口が急増、その後もJR宇都宮線の東鷲宮駅の開通に伴う再開発などもあり、現在は第三次産業の割合が6割を超える状況となっているが、人口は平成7年以降ほぼ横ばいを続けており、開発の続く東側と、神社を中心に旧来の面影を残す西側とで、二つの顔を持つ田園都市である。

「らき☆すた」の登場

 そのような中、2007年4月から、深夜放送のTVアニメーションとして「らき☆すた」がスタートする。「らき☆すた」とは2004年1月から月刊コンプティーク誌にて連載がスタートした4コマ漫画で、日常によくある淡々とした出来事を独特の視点でほのぼのとした語り口で表現しており、今回のアニメ化にあたり、センセーショナルなオープニング映像などが話題を呼び、一躍ヒット作となった。原作者の美水かがみ氏が埼玉県幸手市出身ということもあり、埼玉県春日部市周辺が作品の舞台となっており、ここ鷲宮町においても4人の主人公のうちの2人姉妹が鷲宮神社(作中では鷹宮神社として登場)の神主の娘として設定されていた。

 アニメーションはその性質上、実写と異なり全てが手書き、CGといった「作り物」であるため、その中でリアリティを獲得する手段の一つとして、近年、ロケーションが重要視されてきており、この「らき☆すた」においてもアニメ化にあたり鷲宮神社はじめ春日部市周辺において綿密なロケハンが行われ、背景美術などに活かされることとなった。その結果、放送開始後から視聴者間で作品の舞台が実在するということで話題になり、アニメ雑誌「月刊ニュータイプ」8月号での特集で「らき☆すた」の舞台として鷲宮神社等が紹介されたことで一気に火が付き、熱心なファンが鷲宮神社を「聖地巡礼」と称して訪れはじめることとなる。

アニメ「らき☆すた」のオープニングの1コマの画像

上はアニメ「らき☆すた」のオープニングの1コマ。下はそのシーンを実際に撮影したもの。比較してみるとわかるとおり、手前にある大酉茶屋や奥の鷲宮神社など、アニメの製作にあたり、かなり綿密なロケハンが行われたことがわかる。このことが、アニメの視聴者に「実在するロケーション」として認識されるきっかけとなり、「聖地巡礼」の流れへと繋がっていくこととなる。

アニメ「らき☆すた」のオープニングの1コマのシーンを実際に撮影したものの写真

地元の対応

 これに対し、地元の反応は最初は芳しいものではなく、地元商工会もオンエア開始時に鷲宮が舞台になっていることが職員の間で話題になる程度であったという。しかしながら、その後、鷲宮神社にファンが訪れ始めると、「神社に普段見慣れない人たちが来るようになったな」と不審に思いながらも、商工会のスタッフは彼らにここを訪れる理由等を話しかけはじめる。これは、「正直、このアニメについて、当初自分たちには理解できない部分もあった。しかし、目の前にこれだけ神社を訪れてくれる人がいるのに、彼らがただ神社に来て町を素通りして帰るだけというのは町としてどうなのか、まずはちゃんと話をしてみるべきではないか」という想いからであった。そうやって話をしていくうちに、彼らが「らき☆すた」を契機に舞台探訪として鷲宮神社を訪れていること、またそのことがアニメ誌で紹介されていることなどが分かった。そして、訪れてくれるファンというのが素直で礼儀正しく、事前に抱いていた印象と大きく異なるというのも収穫だった。

 そんな中、7月にネット上で「関東最古の神社に「らき☆すた」ヲタク殺到 地元「治安の問題が・・・」」と題したニュースが掲載される。商工会スタッフの「この巡礼ブームを活かす方策を検討している」とコメントを掲載する一方、地元鷲宮ではなく隣の久喜市の住民の「治安が心配」といったコメントを掲載するなど、否定的な認識に基づき書かれた感が強い記事であった。

 商工会スタッフは、この報道により、鷲宮を訪れてくれているファンに対して実態とは異なるネガティブなイメージが先行することを懸念、理由は別にしても鷲宮町を訪れてくれる彼らに対し、何か「鷲宮町に来て良かった」と思えるお土産になるようなものを提供できないか、と考え、神社を訪れるファンにもリサーチを行い、版権元の角川書店に連絡、企画書を作成し数度の打合せを経て、グッズの販売と併せてイベントが開催されることとなった。

グッズの販売とイベントの開催

 イベントの開催時期が12月に決まると、まずそれに併せてグッズの製作に取りかかった。グッズの製作にあたり検討されたのは、「ありふれたキャラクター商品を作るのではなく、地元の産業とリンクしたものを提供することで、ファンにも地場産業の魅力を理解してもらおう」というものであり、その結果、最初に春日部の伝統工芸である桐箪笥の桐にキャラクターを焼き込んだ絵馬型のストラップが作成された。また、このストラップの販売方法についても、地元商店街の振興策となるように販売は地元商店のみとし、全種類のうち1店舗におけるのは2種10類までとした。初めての試みのため、商店側の不安を払拭するべく、売れ残った場合は引き取りも可とすることで販売への協力を求め、結果、ファンが販売を行った17店舗をくまなく訪れ、またストラップ以外の商品も併せて購入するケースが頻発し、1次販売分は開店30分で完売、その後、2次販売で45店舗、3次販売で60店舗と店舗数を増やしながら販売を行い、一個630円のストラップを総計1万5,000個完売した。その後、ポストカードやマウスマットなどを作成、いずれも好評を博している。

 そして、グッズの発売と併せて、角川書店の協力を受け12月2日に出演声優らによる「公式参拝」と題したイベントを開催、神社に隣接する商工会直営の直営店「大酉(おおとり)茶屋わしのみや」にて出演声優4名が接客、特別メニューを来店者にふるまったり、鷲宮神社での絵馬や玉ぐしの奉納などが行われ、参加者も3,500人を数えるなど大盛況となった。地元商店街も応対に追われることとなり、町全体が目に見えて活気が現れはじめることとなる。

 その後、歳末大売出しを経て、平成20年の鷲宮神社の初詣では、前年を17万人も上回る30万人の参拝客を記録、商工会も正月用のグッズを準備、例年、この時期は店を閉めているところが多かった商店街も大晦日から正月にかけて店を開けて対応し、初期の頃から鷲宮神社を訪れていたファンの一部も先の公式参拝に引き続きボランティアとして人員整理等に参加、地域住民と協力しながらイベントの成功に一役買うこととなった。

 また、これを前後して新聞やテレビ等マスメディアに数多く取り上げられることとなったが、報道内容も、当初の否定的なニュアンスから、町おこし的な観点からの好意的なものに変わってきており、この反響を受けて、行政サイドも対応に動き出すこととなる。

 グッズの写真  

グッズとして最初に製作された絵馬型の携帯ストラップ。春日部の伝統工芸でもある桐箪笥の桐にキャラクターを焼き込んであり、品質的にも優れたもの。全10種が作成されたが、販売即完売の状態が続いており、21年の初詣に併せて行われた再販も即完売となっている。

 イラストを模した絵馬の写真  

鷲宮神社境内の絵馬。聖地巡礼が始まってから、イラストを模した絵馬を記念に奉納していく人が後を絶たず、絵馬掛は神社の新たなスポットとなっている。中には写真のとおり50回以上にわたる参拝の都度、絵馬を奉納していく熱心なファンも。

住民票の交付へ

 12月の「公式参拝」が盛況だったことや、正月の参拝での参拝者数倍増、また各種メディアでも報道されていることを受けて、年明けから鷲宮町役場でも行政サイドとしての対応策を検討、商工会や関係各課とも調整を行った結果、特別住民票を交付することを決定、4月の「大酉茶屋わしのみや」の3周年記念イベントを「らき☆すた」感謝祭りとして開催する際に、その一環として特別住民票交付式を行うこととなった。

 特別住民票自体は発行自体に特に法的な条件はなく、過去にも埼玉県新座市の「鉄腕アトム」などの例があるが、今回は作成にあたり、「単なる住民票ではなく、受け取る人が喜んでもらえるようなものを」との考えから、角川書店の協力を得て特別住民票に掲載するキャラクターのイラストを特注し、併せて「らき☆すた」の文字入りのクリアフォルダーを作成するなど、工夫を凝らしたものとなった。そして4月6日、大酉茶屋三周年開所式典(らき☆すたファン感謝祭)と併せて特別住民票交付式が行われた。当日は近畿日本ツーリストによるバスツアーも繰り出され、全国から約4,000人が参加、交付式では声優2人と鷲宮神社宮司、角川書店に対して本多町長から特別住民票が手渡され、訪れたファンに対する交付(1部300円)もボランティアの協力もあってスムーズに行われたが、イベント後も住民票を求めて鷲宮町を訪れるファンが後を絶たず、8月までに予定数の1万枚を交付した。また、同じく3日からはじまった町内飲食店スタンプラリーも1万食以上を売り上げており、これまでのイベント・グッズ等による地元への経済効果は1億円を超える結果となっている。その後、9月に行われた、鷲宮神社に奉納された千貫御輿を担いで町を練り歩く「土師(はじ)祭」にも「らき☆すた御輿」が登場、担ぎ手に全国から応募が殺到し、参加者も前年比2万人増の5万人と大盛況となった。

特別住民票の写真

特別住民票。当初は既存の住民票の記載部分をアニメのキャラクター名に変えたもので企画していたが、受け取る人に喜んでもらえるようにとのことから、書き下ろしのイラストを使用し、レイアウト等も見直して現在のものに変更となった。

「アニメも受け入れる町」へ

 これらのイベントは町の活性化と共に、ファンと地域商店との間に交流を生みだし、それが人と人との繋がりへと発展していくこととなった。これは、当初から「販売するだけの儲け主義に走らず、来てくれるファンに対して何か喜んでもらいたい」という地元サイドの姿勢が生み出した結果ともいえる。また、収益の一部で街路灯を設置するなど、一般住民に対する還元も行うことが出来た。

 今回の一連の出来事は、「らき☆すた」という人気作品に鷲宮町が舞台として取り上げられた、といういわば「偶然に端を発したもの」だったが、それをここまでの成果に結びつけることが出来たのは、ファンが鷲宮神社を訪れ始めたときに、偏見に囚われることなく、「町おこしのチャンスになれば」との判断から彼らと交流を持ち、その後も企画、イベントを短期間で次々と実行することができた商工会のフットワークの良さにあり、それは特別住民票交付を短期間で実現した町役場や、ファンを暖かく迎えた地元商店街、一般住民にもいえる。また、それは従来、ネガティブなイメージで捉えられることの多かった「小規模な組織・自治体」であるがゆえの「意志決定の速さ」がもたらしたものでもある。いわゆる「天地人」が揃った時に、その好機を逃さないスタッフが発案した従来にない企画に即座にゴーサインを出せるという、組織が大きくなるほど逆に難しいことが、今回の成功の要因の一つとなっており、それは、何も町おこしに限った話ではなく、一般社会にも通じることと言えるのではないか。

 今回の出来事は町の活性化に見事に繋がったが、この「らき☆すたの街」というだけで今後も潤うわけではない。しかし、今回広く知らしめることが出来た「らき☆すたも受け入れる街」という、新しい試みや企画を受け入れ、かつ「関係した全ての組織等のメリットを考える」というスタンスは、映画等におけるロケーションタウンなど、いくつかの企業から様々な連携の企画を呼び込み始めている。「らき☆すた」の際に見せた町のポテンシャルが評価され始めているのである。平成21年の鷲宮神社への初詣には、アニメ放映終了から1年以上経過しているにもかかわらず、前年をさらに12万人も上回る42万人が訪れた。鷲宮町のこれからに注目したい。

らき☆すた御輿の写真

毎年9月に開催される、鷲宮神社に奉納された千貫御輿を担いで町を練り歩く「土師祭」に、平成20年は「らき☆すた御輿」が登場、担ぎ手は全国から120人が参加。5万人の参加者が見守る中、130kgの御輿を担いで2kmにわたって練り歩いた。

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