「医療制度改革の課題と視点」の問題点について

 先般、厚生労働省高齢者医療制度等改革推進本部が公表した「医療制度改革の課題と視点」(以下「課題と視点」という。)は、国民健康保険制度に関する記述などに以下のような問題があると考えられるので、これらについて適切に対処されるよう要請する。

1.医療保険制度の一本化について
  医療保険制度をめぐる基本的な問題は、各保険制度の分立が社会経済状況の変化に適応できなくなり、給付と負担の不公平を生んでいることにある。従って、将来にわたって国民が安心して必要な医療を受けることができるようにするためには、高齢者医療のみでなく、医療保険制度全体の抜本的な改革を進めることが必要である。「課題と視点」においてもそのことをまず明記すべきである。
  このような考え方から、我々はすべての国民を通ずる医療保険制度への一本化を主張してきた。また、当面の段階的な措置として、現在の保険者は存続させながら、医療保険に関する財政を一本化することも提言した。
  「課題と視点」は、この一本化方式も取り上げているものの、具体的な選択肢が「独立方式」と「突き抜け方式」に絞られているかのような扱いとなっており、我々が提言している当面の財政一本化については触れることなく、一本化方式は「将来的な長期構想の一類型」としている。これは、国民の間で議論を始める前から、厚生労働省としては我々の主張を当面の検討対象とする考えがないことを示したものと受けとめられ、国民が「共に考えるための資料」(3頁)として作成されたという「課題と視点」の性格からも極めて不適切な記述といわざるを得ない。

2.国民健康保険の現状に関する説明について
  「課題と視点」における医療保険の現状に関する説明には次のような問題がある。
 (1) 健保組合は7割が赤字、国保は(2,030億円の一般会計繰入れ後も)6割が赤字と記述しているが(26頁)、市町村国保は保険料のほか一般会計から総額8,550億円(11年度決算。保険料収入額に対し28.5%の額)を繰入れており、仮にこの繰入れがなければ、殆どすべてが赤字という苦しい運営を余儀なくされている。このような実態が明らかにされていない。
 (2) 一世帯当たり保険料の額について、医療保険制度間で格差が生じないこととなっていると記されており(21頁)、また、国保7割、被用者保険8割という給付制度の格差に関する記述もないため、我々が従来から強く指摘している医療保険制度間の給付と負担の不公平の問題が明らかになっていない。国保の被保険者の所得は被用者保険のそれに比べて著しく低く、一方、高齢者が多いため、同程度の所得の者の保険料負担額を制度間で比較すれば、国保の被保険者の負担が際立って重くなっているという重要なポイントを明確にする必要がある。
 (3) 老人保健事業に係る拠出金について、被用者保険の負担が相対的に大きくなっていると記されているが(24頁)、これは負担の公平に向けた是正の結果であり、むしろ被保険者の所得水準を考慮した拠出金負担は、国保の被保険者の方が重いという実態が示されていない。
  市町村国保については、以上のほか、保険者が3,245にのぼっており、中には被保険者数が極めて少数であったり、高齢者が半数以上を占めるなど、さまざまな実態があることを踏まえ、国保全体としてのトータルの数値のみでなく、個別保険者毎の実情を明らかにする必要がある。

 平成13年5月9日        

全 国 市 長 会
全 国 町 村 会
国民健康保険中央会