20. 水産業対策の充実


 わが国の水産業および漁村をめぐる環境は、周辺水域における水産資源の低迷や漁業生産の担い手の減少・高齢化、さらには輸入の増大による水産物価格の低迷等極めて厳しい状況にある。このような状況に的確に対処し、水産業の一層の振興と活力ある漁村の形成をはかるためには、水産業対策をさらに充実させる必要がある。
 よって、国は次の事項を実現されたい。

1. 水産基本法に基づく施策の早期実施
 新たに制定された水産基本法に基づき、水産基本計画を速やかに策定するとともに、具体的施策を早期かつ強力に実施すること。

2. 適切な資源管理に配慮した貿易ルールの確立
 水産物に関するWTO交渉においては、各国がそれぞれ自国の水産資源を適切に管理することを前提とする貿易ルールの確立を目指すとともに、わが国の水産業の安定と発展に支障が生じることのないよう、関税の引き下げ、非関税措置の撤廃が行われることのないよう努めること。また、輸入の増大によって国内の漁業経営に著しい影響が生じた場合は、速やかに一般セーフガード(緊急輸入制限措置)を発動すること。

3. 漁業経営対策の強化と漁業就業者の確保・育成
(1) 漁業経営の安定と効率化等に資するため、漁業活動に関する諸規制については、資源管理や漁業調整との調和をはかりつつ、緩和措置を速やかに講じること。また、資源の回復措置の一環として減船や休漁等が実施される場合は、関係漁業者の漁業経営に大きな影響を及ぼすことのないよう十分な対策を講じること。  

(2) 漁業就業者の減少および高齢化の進行に対処するため、意欲と能力のある経営体の育成に努めるとともに、漁業就業者の確保や労働条件の改善のための施策の充実・強化に努めること。

(3) 近年における金融および金融業をめぐる情勢の変化にかんがみ、信漁連および信用事業を行う漁協の経営基盤を充実・強化するための措置を講じること。

(4) 漁業災害補償制度は、近年における漁業および漁業者ニーズの変化に即して見直しを行い、対象魚種の拡大等制度の充実・強化をはかること。

4. 資源管理対策の強化と操業秩序の確立
(1) わが国周辺水域の資源回復と持続的利用をはかるため、漁獲努力量の適正化等、計画的な資源回復措置を速やかに講じること。また、あわび、うに等の沿岸定着性水産動物資源に対する密漁について、徹底した防止対策を講じること。

(2) 遊漁における資源利用の適正化および遊漁船業に対する指導の強化に努めること。 

(3) 新しい日韓および日中の漁業協定に基づく操業条件が、わが国の水産資源および漁業者に悪影響を及ぼすことのないように努めるとともに、協定水域全域における操業秩序の確立をはかること。

5. つくり育てる漁業の推進と内水面漁業の振興
(1) 栽培漁業の継続的かつ積極的な事業展開を推進するとともに、栽培技術の開発、指導および研究体制を充実・強化すること。また、環境に配慮し、需要に的確に対応した養殖の推進等、養殖業にかかる施策の充実・強化に努めること。

(2) 内水面漁業・養殖業の一層の振興と内水面地域の活性化をはかるため、外来魚および疾病対策に配慮しつつ地域の実態に即した増殖事業を推進すること。

6.水産物の流通・加工・消費・価格対策の強化 
(1) 水産物流通の効率化と水産加工業の経営体質の強化をはかるため、産地市場の統合等産地市場機能の強化をはかるとともに、資源回復措置に関連して行われる代替原料の確保等の取り組みに対して積極的に支援すること。    

(2) 水産物の安全性と品質の維持を確保するため、HACCP(危害分析・重要管理点)方式の導入を推進する等して、衛生的・効率的な水産物供給システムを確立すること。 

(3) 消費者の適切な消費行動に資するため、消費者に対し、原産地表示の適正化等食生活に関連する情報を提供するとともに、魚食の普及に努めること。

(4) 漁業生産の不安定性にかんがみ、水産物の需給と価格の安定化をはかるため、漁獲物の調整保管事業を抜本的に見直し、制度の改善をはかること。 

7.漁業地域の活性化と水産基盤整備の推進   
(1) 漁業地域の活性化をはかるため、地域の生活環境の整備・改善を推進するとともに、都市との交流をはかる諸事業を推進して収益機会の増大をはかるよう支援すること。また、沿岸漁業漁村振興構造改善事業を引き続き推進すること。

(2) 水産基盤整備を効率的、効果的に実施するため、漁港漁村整備、沿岸漁場整備およびその他の施設整備にかかる事業を一体的かつ計画的に実施するとともに、海岸関係事業の積極的推進により水産業および漁村の総合的振興をはかること。また、これらの事業が円滑に実施できるよう積極的な予算措置を講じること。

8. 漁場・沿岸環境保全対策の推進
(1) 漁場環境および生態系の保全をはかるため、引き続き漁民の森づくり活動を支援するとともに、磯焼け現象の解消など藻場・干潟の再生・造成、水質の改善等を行うこと。

(2) 漁業系廃棄物の処理・再利用システムおよび赤潮・貝毒による漁業被害防止等に関する技術開発等、水産関係の環境問題全般についての対策を早急に確立すること。

(3) 海浜および漁場の美化を総合的に推進する施策の充実をはかること。 特に、町村の海浜清掃等環境美化運動に対し積極的に支援するとともに、外国等からの漂着物の処理に対する助成措置を講じること。

(4) 平成12年漁期において発生した有明海におけるのり養殖の大規模な不作については、その原因究明のための実態調査を早急に実施し、漁場環境復旧のための対策を講じるとともに、関係漁業者に対しては、十全の支援措置を講じること。

9. 海外漁場の確保等
(1) わが国周辺水域からのみでは不足する漁業生産を補完するため、国際的な資源管理に貢献する調査を実施する等して、海外における遠洋漁業の漁場の確保に努めること。

(2) 科学的根拠に基づいた鯨類資源の合理的利用をはかるため、捕鯨業の早期再開に向けて努力すること。

10. 試験研究と技術開発の推進
 水産各分野の持続的発展をはかる上で不可欠な試験研究・技術開発については、課題の重点化と一層の効率的な推進をはかること。

11. 漁村地域に対する財政措置の拡充
 沿岸、離島、半島等に立地している漁村は、地理的、社会的、経済的条件に恵まれない条件不利地域であり、総じて財政基盤が脆弱な町村が多い。このような町村が漁業の振興、漁村の活性化を自主的、主体的に推進するためには、財政基盤を強化する必要があるので、農山漁村対策に係る財政措置を拡充すること。