18. 新農業基本法に基づく新たな地域農政の推進


 わが国の農業・農村は過疎化・高齢化の進展による担い手の減少、耕作放棄地の増加また、国際化の一層の進展等大変厳しい状況にある。このような状況において、食料・農業・農村基本法およびそれを具体化する食料・農業・農村基本計画を着実に実施し、安定した足腰の強い農業および農山村の構築を早急に実現する必要がある。
 よって、国は、次の事項を実現されたい。
                             
1. 食料自給率目標の達成
 国民に安全性の高い食料を安定的に確保するためには、近年の自給率の低下傾向に歯止めをかけ、主要先進国の中で最も低い水準にある自給率の向上をはかることが必要である。したがって、「食料・農業・農村基本計画」において示された食料自給率の目標を確実に達成するため国内農業生産振興対策を抜本的に強化するとともに食料消費については、食品の廃棄や食べ残しの削減等食生活の見直しについて周知・普及をはかること。

2. 国内農業生産体制の強化と国産米の消費拡大
(1) 水田を中心とした土地利用型農業の推進
 米の計画的生産および麦・大豆・飼料作物等の本格的生産の定着・拡大をはかる水田を中心とした土地利用型農業活性化対策の推進に当たっては、地域の実情に即した取組みを推進するとともに、米穀の需給均衡と価格の安定を早急に図ること。
 また、生産数量・作付面積ガイドラインを早期に提示するとともに、その配分、確認、助成金の交付等に係る町村の事務について町村の負担が過重にならないよう簡素化すること。

(2) 農業生産総合対策の推進
 自給率の低い麦、大豆等の重点的な生産振興のため、排水対策等圃場の改良整備など総合的・作物横断的な生産対策を推進するとともに各地域の実情に応じた地域特産作物の振興、開発を行うこと。
 また、園芸産地の活性化をはかるため産地の実態にあった野菜生産省力機械の開発普及を促進すること。なお、生産資材費の軽減をはかるため農業機械・施設リース事業を拡大すること。

(3) 畜産振興総合対策の推進
 酪農および肉用牛経営の安定と健全な発展をはかるため家畜排せつ物の処理の促進、肉用子牛対策の強化等の畜産振興総合対策を推進すること。
 特に、口蹄疫等畜産に係る海外伝染病の国内侵入・まん延防止対策等の防疫対策および国産稲わら供給体制の一層の強化をはかること。

(4) 国産米の消費拡大
 世界的な食料・環境問題が懸念されるなか、米を中心とした日本型食生活の再構築をめざすとともに農村地域の活性化につながる新たな米消費拡大策の拡充強化をはかること。また、日本の食文化を守り育てていくため米飯を主体とする学校給食制度を確立し、学校給食用米穀の確保のための施策の創設と必要な財源の確保をはかること。

3. WTO農業交渉への対応
 WTO農業交渉に当たっては、農業の有する多面的機能や食料安全保障の重要性に配慮した新たな国際ルールの実現をはかること。
 また、関税化に移行した米については、稲作農家の経営に影響のないよう現行の関税水準の維持、ミニマム・アクセス米の見直しに努めるとともに諸外国への援助用に積極的に活用すること。
 なお、輸入農産物が増加傾向にあることから、監視を強化し、国内農業経営に著しい影響がある場合、セーフガード(緊急輸入制限措置)を迅速かつ円滑に発動するとともに、国内産地対策を強化すること。

4. 地域農業の体質強化
(1) 地域農業の担い手の育成・確保
 地域における少子・高齢化が著しく進行しているため、意欲ある担い手の確保・育成と新規参入を促進するため農業就業者の所得の確保、社会保障、年金等の身分保障制度を確立すること。特に、安定した農業者年金制度は、若い担い手の確保の面から重要であるため、新制度への円滑な移行、PRにつとめるとともに制度の充実強化をはかること。
 また、認定農業者への支援を資金面、技術面から強化するとともに女性の農業経営に参画する機会の確保と高齢農業者が生きがいを持って農業活動を行うことができる環境の整備、集落営農に対する支援を強化すること。

(2) 農業基盤整備の推進と土地改良負担金の軽減
 国内の農業生産の増大に資するため、水田汎用化、畑地かんがい等に重点をおいた農業基盤整備の推進および土地改良負担金の農家負担の一層の軽減をはかること、また、受益者負担のない場合は土地改良法に基づく同意を要しないよう法手続きを簡素化するとともに、地域の実情に応じた小規模な土地改良事業が実施できるよう措置すること。
 また、土地改良事業に係る施設および広域営農団地農道の維持管理費の助成を拡充するとともに、国営かんがい排水事業により建設された施設は国が管理すること。

(3) 経営構造対策の推進と担い手への農地の利用集積の促進
 効率的かつ安定的な農業経営を育成するため、経営構造対策を強力に推進すること。また、農地利用集積対策を強化すること。

(4) 優良農地の確保
 「食料・農業・農村基本計画」で示された食料自給率の達成に向け、必要な優良農地の確保と有効利用を積極的に推進するとともに、地域の実態に応じた土地利用をはかるため、土地利用計画の策定等に係る町村長の権限を強化すること。
 また、農業振興地域整備計画の変更については、地域の実情に応じた柔軟な対応が可能となるよう規制を緩和すること。

(5) 農林地の保全・管理対策の強化
 耕作放棄農地や放置森林等の増加傾向に対処し、国土の保全管理を推進するため、中長期的視点に立って以下の措置を講じること。
  ア. 耕作放棄農地、放置森林等の維持管理等を行う町村、公社、第三セクターへの経費助成の拡充。
  イ. 相続に伴う農林地の粗放化、細分化防止のための特例措置として耕作及び管理できないものについては、町村又は農協等が買取り管理する制度の創設。
  ウ. 農地保有合理化法人が農地を取得し、新規参入者や大幅な規模拡大をめざす者に超長期間の貸付を行う制度の創設。
  エ. 農業公社、関係法人等の設立並びに耕作農地確保の場合の事務手続きの簡素化。

(6) 農業経営安定対策の充実
 米・麦・野菜等の農畜産物価格安定制度については、市場原理を重視した価格政策への見直しが進められているが、大幅に価格が下落した場合に農業経営に大きな影響を及ばさないよう所得確保対策および経営安定対策等の施策を拡充すること。
 また、経営を単位とした新たな農業経営所得安定対策の早期樹立をはかるとともに、その構築にあたっては、地域の実態に即したものとすること。

5. 農山村地域活性化対策の拡充と生活文化環境等の整備
(1) 農山村地域活性化対策の総合的推進
 若者の定住をはかるため農林業を基幹産業とした多様な産業の総合的振興等就業、所得機会の拡大をはかる施策の実施とともに都市と比べて立ち遅れている農山村の道路、集落排水施設、情報関連施設、福祉施設等生活文化環境の整備を促進すること。            

(2) 中山間地域等の振興
 中山間地域等の一層の振興をはかるため「新山村振興等農林漁業特別対策事業」を推進すること。
 また、中山間地域等直接支払制度の円滑な推進のため交付金単価を確保するとともに地域指定、集落協定の承認、対象行為の確認等に係わる町村の事務を簡素化し、町村に過重な負担がかからないようにすること。
 なお、集落の共同活動のためにプール(積み立て)した交付金については、非課税とすること。

(3) 農山村と都市との交流の推進
 農山村地域の活性化や都市と農山村の共生をはかるグリーンツーリズムの一層の推進をはかること。

(4) 地方財政措置の拡充
 地域の自主性・創意工夫を活かしつつ、地域の活性化をはかるため、「農山漁村関連施策」および「国土保全対策」を拡充すること。

6. 地域食品産業振興対策の充実と食品流通の構造改革の推進
(1) 地域食品産業振興対策の充実
  ア. 多様な消費者ニーズに対応し、地場食品加工産業の育成とふるさと食品の高付加価値化、販路の拡大等をはかること。
  イ. 農村地域に立地している農林水産関係加工産業は規模が小さく経営が不安定であるので、その体質強化、経営の安定等をはかるための施策を充実すること。

(2) 食品流通の効率化と安全性の確保
  ア. 輸送技術、貯蔵技術の改善等による、低コスト・省力化等食品流通の構造改善対策を積極的に推進すること。
  イ. 消費者の適正な商品選択、安全性への関心の高まり等に資するため、食品等の表示の一層の充実強化をはかること。

7. 農業技術の開発と普及等
 生産性の向上や経営体質の強化等をはかるため、地域の特性に応じた農業に関する研究および普及並びに消費者ニーズに応じた新しい食品の加工および開発に関する研究を推進すること。特に、遺伝子組み替え技術を活用して生産した農畜産物については、環境への影響や安全性の確保に十分配慮すること。