内閣総理大臣あいさつ
 
 全国町村長大会が開催されるに当たり、一言御挨拶を申し上げます。
 はじめに、各町村にあって、首長の重責を担われ、住民福祉の向上と地域社会の発展に尽力しておられる皆様方の御労苦と御熱意に対しまして、心から敬意を表しますとともに、日頃の政府施策への御理解と御協力に対しまして、厚く御礼を申し上げる次第であります。 私は、我が国経済を新時代にふさわしい構造に改革することが現下の最重要課題である、このような認識のもとにこれまで、「日本新生プラン」に積極的に取り組んでまいりました。先の臨時国会におきましても、補正予算やIT基本法、さらに改正少年法、警察法など多くの重要法案を成立させていただいたところでございます。
 さて、21世紀の幕開けが目前でありまして、中央省庁改革もいよいよ来月1月6日から施行されます。このため、新しい時代の幕開けに備えまして、日本新生に向けた各種の改革に全力で取り組む「実行力と責任の内閣」を目指しまして、昨日、内閣改造を断行したところであります。私は、この内閣で、国家、国民のために何が必要かを第一に考え、全身全霊を傾けて国政に取り組んでいく決意であります。
 日本新生への改革を進める上で、最も重要な柱の一つとなるのが、新時代にふさわしい行政システムの構築であります。中央省庁改革というこの歴史的な改革に、しっかりと腰を据えて取り組んでまいりたいと考えております。
 仏作って魂入れずという言葉もよくございますが、単に皆様のお力添えを頂いて1府12省庁という少しコンパクトにした役所、この形を作ったというだけでは本当に行政改革の実は上がらないと私は考えております。1月6日は本当にこの行政改革のまさにスタートであって、これに魂を入れていくにはどうあるべきか私は常々考え、今回のこの改造にあたりましても12省庁に編成されたリーダーシップを発揮した当時の橋本総理大臣にあえてこの担当大臣をお願いして、そして本当に21世紀を見据えたまず日本の中央省庁がまずどうあるべきなのか、私はこのことをしっかりやり遂げていきたい。そして、このことがこれから後に続く地方の行政改革にいい意味での参考になっていくように、そうしたことを促したい。こんな気持ちで今回の内閣改造にこのことに私は最も大きな力点を置いた次第でございます。
 今、山本会長をはじめ西田副会長の宣言等とも十分拝聴させて頂きましたが、みんなでこの行政のあり方、行政の仕組、行政庁の姿勢がどうあるべきかということを、真剣に考える大事な時期が来ておる、私はこのようにと思う次第でございます。
 一方、この改革を真に実効あらしめるためには、併せて地方分権を強力に推進していくことが極めて重要であります。本年4月からは、皆様のお力添えをいただき地方分権一括法が施行に至っておりますが、引き続き、国と地方を通ずる21世紀型の行政システムの構築に力を尽くしてまいります。
 また、こうした取組が進む中で、各町村においては、新たな役割を担うにふさわしい行政体制を自ら整備・確立していくことが求められております。とりわけ、市町村合併の推進は、地方分権の成果を十分に活かしていくため、積極的な取組が期待される課題の一つでもあります。平成12年度予算におきましても市町村合併推進補助金を確保するなど、幅広い支援措置を講じておりますので、ただいま会長からもお話がございましたこと、私どもとしても十分このことを参考にさせて頂きながら、なお一方各町村におかれましても一層この取組についても真摯にお取組みを願いたいことをあえて申し上げておきたいと存ずる次第でございます。
 ご承知の方があるかと思いますが、私の亡くなりました父も長い間石川県で町長をいたしておりまして30有余年勤めさせていただきました。当時私の父がいつも言っておりましたことは、本当に地域住民の気持ちをしっかりと把握できる人間の行政の範囲というのは、やはり町村という単位が一番いいのだろうなということをよく私に教えてくれました。一人一人の町村民が地域住民が何を考え、どのようなことがあって毎日の生活の中でどういう変化があったかということを全部しっかりと酌み取れる単位はやはり町や村という単位でないと無理だろうな、それ以上の行政範囲が拡がっていくことは結局自分の力でできない。そしてまた結局人様に委ねていかなければならない、ここが大変大事なところだよということをよく私の父は私に教えてくれたことをいつも私は大事にいたしております。 しかし、時代は大きく変わってまいりました。広域的ないろんな諸施設が必要になってまいります。環境、高齢化、少子化さらにもっと言えば情報化、国際化そういう大きな視点の中で今の市町村の単位で物事を解決していくには余りにも財政の負担が大きい。この市町村の財政と国のいわゆる負担と協力、助成のあり方というのはどうあるべきなのか、これなども明確にしていかなければならないことだろうと思っています。
 私がこういうふうに申し上げるとまた報道機関は町村合併はあまりしないほうがいいと総理が言ったとお書きになるかもしれませんが、私はそういうことを申し上げたのではない。やはりIT化がさらに進んで国際社会の中が現実的にはですね、グローバル化が進んで国境というのがまさに希薄化しているんです。一つの国の中にある行政単位というのはどうあるべきか、時代は大きく変わっていると私は思うし、そのことの判断は後世、多くの国民が、また地域住民が判断していくことになるだろう。そのために我々はあえてここで厳しい難しい問題点に真正面から取り組んでいくことが私はきわめて重要であろうと思うんです。
 我が国の中央の省庁もある意味では半分に縮小した訳で、しかし形を整えても現実に行政改革の実が上がらなければ、先ほども申し上げたように魂が入らないと言うことを申し上げた訳であります。形にとらわれず、21世紀というこれから次の100年に向けてどういう行政のあり方が本当に大事なのか重要なのかということを是非皆様方でお取りくみ頂きたい。おっしゃるとおり国が強制するものではないということは我々も十分承知をいたしております。
 さらに、日本新生の核として,私が位置づけているのがIT革命の推進であります。先に制定いたしましたIT基本法は日本型IT社会の基本的枠組みを定めたものでありすが、この中で最重要施策の一つであります「電子政府」実現のためには、住民サービスの最先端に立つ皆様方の取組がきわめて重要であります。政府といたしましても、積極的に支援してまいりますので、皆様におかれましてもこの面につきましても御尽力をお願いする次第です。
 現下の地方財政につきましては、我が国経済の厳しい状況により借入金が急増するなど、極めて厳しい状況にあります。このため、地方財政の建て直しの観点からも、先に取りまとめられました「日本新生のための新発展政策」を果断に実行し、まずは景気を本格的な回復軌道に乗せた上で、地方財政の諸課題についても幅広くしっかりとした検討を行い、地方税財源の充実確保など地方財政基盤の強化にも努めてまいりたいと考えております。
 以上、内政に関する重要課題について、所懐の一端を申し述べました。皆様方におかれましては、それぞれの町村が個性的で活力ある地域として、さらなるご発展を遂げられまして、21世紀という新しい時代に合った豊かな国民生活が実現されますよう、より一層の御尽力を賜りますようお願い申し上げます。
 終わりに、皆様方の一層の御活躍を心から祈念申し上げまして、私の挨拶といたします。本日は皆様ご苦労様でございました。
平成12年12月6日
  内閣総理大臣
  
  森  喜 朗
 
 

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