19.水産業対策の充実

 

わが国の水産業は、平成8年以降新たな海洋秩序時代に即した対応を求められているが、その環境は、周辺水域における水産資源の低迷や漁業生産の担い手の減少・高齢化、さらには漁村の活力の低下等極めて厳しい状況にある。このような状況に的確に対処するためには、水産業の一層の振興と活力ある漁村の形成をはかることが必要である。

このため、平成13年度の予算編成に当たっては、日本新生特別枠、生活関連等公共事業重点化枠の活用を含め、水産業対策をさらに充実させる必要がある。

よって、国は次の事項を実現されたい。

1.水産基本法の制定

新しい海洋秩序時代に即した的確な施策が講じられるよう、これまでの水産政策を抜本的に見直し、今後の水産基本政策の理念と施策の方向を明らかにした水産基本法を速やかに制定すること。

また、関連する諸制度についても併せて見直しを行い、改革に向けた施策の具体化に努めること。

2.適切な資源管理に配慮した貿易ルールの確立

水産物に関するWTO交渉においては、各国がそれぞれ自国の水産資源を適切に管理することを前提とする貿易ルールの確立を目指すとともに、わが国の水産業の安定と発展に支障が生じることのないよう、関税の引き下げ、非関税措置の撤廃が行われることのないよう努めること。

3.漁業経営対策の強化と漁業就業者の確保・育成

(1)漁獲可能量(TAC)制度の導入等漁業をめぐる情勢の著しい変化にかんがみ、漁業活動に関する諸規制について地域の特性に配慮した改善をはかること。

また、資源の回復・管理等に対応して減船や休漁等が実施される場合は、関係漁業者の漁業経営に大きな影響を及ぼすことのないよう十分な対策を講じること。  

(2)水産物の供給を将来にわたって安定的に担い得る体制の確立をはかるため、意欲と能力のある経営体の育成に努めるとともに、これらの経営体を総合的に支援するための施策を講じること。

また、新たな漁業就業者の受入れを促進するとともに、漁村の女性、高齢者等の技術・能力の向上をはかるため、漁業研修やグループ活動の促進等施策の充実をはかること。

(3)漁協が地域において資源管理等の新たな課題を担うことができるよう、基盤強化を目指して行う合併や信用事業再編のための事業統合に対する支援策を講じること。

(4)漁業災害補償制度は、漁業および漁業者ニーズの変化に即して、適切かつ効率的な運営に努めること。 

4.資源管理対策の強化と操業秩序の確立

(1)わが国周辺水域の資源回復と持続的利用をはかるため、広域的な資源管理体制を確立するとともに、計画的な資源回復措置を速やかに講じること。

(2)新しい日韓および日中の漁業協定に基づく操業条件が、わが国の水産資源および漁業者に悪影響を及ぼすことのないように努めるとともに、協定水域全域における操業秩序の確立をはかること。

5.つくり育てる漁業の推進と内水面漁業の振興

(1)対象魚種の拡大、栽培単位の広域化等栽培漁業の積極的な事業展開をはかるとともに、環境に配慮し、需要に的確に対応した養殖の推進等、養殖業にかかる施策の充実・強化に努めること。

(2)内水面漁業・養殖業の一層の振興と内水面地域の活性化をはかるため、外来魚および疾病対策に配慮しつつ地域の実態に即した増殖事業を推進すること。

6.水産物の流通・加工・消費対策の強化

(1)水産物流通の効率化と水産加工業の経営体質の強化をはかるため、産地市場の統合等産地市場機能の強化をはかるとともに、中小・零細企業が大部分を占める水産加工業の経営体質の強化に努めること。

(2)水産物の安全性と品質の維持を確保するため、HACCP(危害分析・重要管理点)方式の導入を推進するとともに、加工処理施設の整備を推進して、衛生的・効率的な水産物供給システムを確立すること。

(3)水産資源の有効利用と海洋環境や地域環境への負荷の低減をはかるため、加工残滓の再資源化および排水処理の高度化等にかかる技術開発および施設整備を推進すること。

(4)消費者の適切な消費行動に資するため、消費者に対し、引き続き食生活に関連する情報を提供するとともに、魚食の普及に努めること。

7.漁業地域の活性化と水産基盤整備の推進

(1)漁業地域の活性化をはかるため、地域の生活環境の整備・改善を推進するとともに、都市との交流をはかる諸事業を推進して収益機会の増大をはかるよう支援すること。

また、沿岸漁業の構造改善を推進し、労働環境を改善する等新たな時代のニーズに即応した漁村の振興に努めること。

(2)水産基盤整備を効率的、効果的に実施するため、漁港漁村整備と沿岸漁場整備を一体的かつ計画的に実施するとともに、漁村の総合的振興に資するための整備を推進すること。

また、漁業集落排水施設の整備を促進するとともに、都道府県による工事制度を創設すること。

(3)近年、侵食の進行が懸念される海岸の防護対策を拡充するとともに、高潮災害を防止するため、高潮予測情報の充実や防護機能の減少した海岸保全施設の更新等総合的な高潮防災対策を速やかに実施すること。

8.漁場・沿岸環境保全対策の推進

(1)漁場環境および生態系の保全をはかるため、全国的な漁民の森づくり活動を支援するとともに、藻場、干潟の再生・造成、水質の改善等を行うこと。

(2)漁業系廃棄物の処理・再利用システムおよび赤潮・貝毒による漁業被害防止等に関する技術開発等、水産関係の環境問題全般についての対策を早急に確立すること。

(3)海浜および漁場の美化を総合的に推進する施策の充実をはかるとともに、町村の海浜清掃等環境美化運動に対し積極的に支援すること。

(4)油流出事故による漁場・海岸の汚染に即応できる油濁被害防止対策を引き続き推進すること。

9.海外漁場の確保等

(1)わが国周辺水域からのみでは不足する漁業生産を補完するため、国際的な資源管理に貢献する調査を実施する等して、海外における遠洋漁業の漁場の確保に努めること。

(2)科学的根拠に基づいた鯨類資源の合理的利用をはかるため、捕鯨業の早期再開に向けて努力すること。

10.技術開発の推進と試験研究の強化

水産各分野の持続的発展をはかる上で不可欠な技術開発および試験研究については、重点的、効率的な推進をはかるとともに、試験研究機関の独立法人化後においても、都道府県、民間等との連携を強化して、開発研究体制の充実強化に努めること。

11.漁村地域に対する財政措置の拡充

沿岸、離島、半島等に立地している漁村は、地理的、社会的、経済的条件に恵まれない条件不利地域であり、総じて財政基盤が脆弱な町村が多い。

このような町村が漁業の振興、漁村の活性化を自主的、主体的に推進するためには、財政基盤を強化する必要があるので、農山漁村対策に係る財政措置を拡充すること。

12.水産関係の税制改正

(1)社団法人全国漁協信用事業相互援助基金に対して拠出する負担金の損金算入の措置をすること。(法人税)

(2)漁業協同組合等の留保所得の特別控除制度を延長すること。(法人税)

(3)漁業再建整備特別措置法に基づき中小漁業構造改善計画を実施する漁業協同組合等の構成員の漁船の割増償却制度を延長すること。(所得税、法人税)

(4)漁港法の規程による貸付けを受けた水産業協同組合が、国又は地方公 共団体に無償で譲渡する土地を取得した場合の特例措置を延長すること。(登録免許税、不動産取得税)

(5)漁業信用基金協会がその業務に係る債権を確保するために受ける抵当権の設定登記又は登録の税率の軽減措置の適用期限を延長すること。

(登録免許税)

(6)民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(P FI法)に基づき、プレジャーボート係留・保管事業の用に供する施設を新増設した場合の課税標準の特例措置を創設すること。(固定資産税)

(7)小規模水産動植物の採捕の事業の非課税措置を継続すること。(事業税) 近年の情報通信技術(IT)の進展に伴い、これに的確に対応することによって、町村の行政事務の効率化・迅速化をはかる必要性が生じてきている。よって、今後、町村において情報化施策を推進していくため、国は次の事項を実現されたい。

1.行政事務の効率化・迅速化及び国・地方の行政情報の共有の促進をはかるため、国の行政ネットワークと接続する地方公共団体のネットワーク(総合行政ネットワーク)の構築が必要であり、そのための支援措置を講じること。

2.情報通信格差の是正をはかるとともに、高度情報通信社会の進展に対応した地域の情報化を促進するため、光ファイバー網、移動体通信、情報拠点施設及びCATV等の高度情報通信基盤の整備等を推進すること。

3.地域住民が不便なく情報化の成果を利用することを可能にする町村の取組を推進するとともに、複数の町村が行う情報システムの共同開発事業や複数の市町村が共同して情報通信技術(IT)の進展に対応する必要がある事業に対して支援すること。

4.町村が地理情報システム(GIS)を活用し、国土空間データ基盤を把握することにより、事務事業の効率化をはかるとともに、災害時におけるライフライン等の情報の一元的な把握を可能とするため、地域レベルの地理情報システム(GIS)の整備、普及の促進に格別の支援措置を講じること。