全国町村会

出生率を伸ばした小さな村の大きな挑戦

長野県下條村

2575号(2006年10月2日号)
下條村長 伊藤喜平

はじめに

我が下條村は、信州の最南端南信州下伊那郡のほぼ中央に位置する人口4,000人余の小さな村です。

明治22年に2つの村が合併して以降、今日まで単独村として歩んできました。「昭和の大合併」の頃は議会も解散するなど大混乱に陥ったわけですが、先人の皆様の努力によって単独を選びここまできました。今振り返ってみても、合併せずにやってきたことは非常に良かったと思っています。

私は中小企業を長らく経営しておりました。昭和40年代は産業構造の変化等により、次世代を背負う優秀な若者を含め人口が急激に減っていく時代でした。

こうした現況に歯止めをかけるべく役場に何度も掛け合ったのですが、当時の役場は、ただ国や県からの通達をもとに、現状に対し何の危機感も抱かず、ゆったりと仕事をしていれば良いという感覚が支配的でした。

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職員の意識改革、人員削減

こうした風潮を打破すべく、昭和50年に議員として3期頑張るも議員の限界を感じ議長を最後に退き、平成4年に村長に出馬、当選。まず着手したのは職員の意識改革でした。予想していたものの、組織としての目的意識は超希薄、スピード感、コスト意識もほとんどない状態でした。そこで、行政では一番多忙な予算編成時期の1月に、あえて全職員を5人ずつ11チームに分け、飯田市にある大きなホームセンターに1週間ずつ物品販売の店頭に立たせて、民間の経営の厳しさについて嫌と言うほど研修を受けさせました。 当時は、民間企業に研修に出すようなことは自治法に抵触するとして、県の地方課からきつい忠告がありましたが、任命権者である私が責任を取るということでやりました。今では県でも民間企業に職員をどんどん出しています。

それから職員の意識は大きく変わりました。外の世界を体験することで、いよいよやる気になったということです。やる気になって仕事を効率よくこなせば、職員数は少なくて済みます。私が就任した平成4年度の正規の職員数51人は、平成18年度には35人に減りましたが、皆全体の奉仕者の使命感をもちつつ頑張っています。

平成15年度国の財政状況調べによると、類似団体で人口1,000あたりの職員数は15.89人。これに対し下條村は8.91人で、56%の職員数になっています。また、経常収支比率70.1%、人件費比率15.3%とこれもかなり低い数値です。平成15年度には係長制度廃止、平成16年度に収入役を廃止。平成17年度には教育長も欠員になっています。少ない人数になると行政サービスが落ちるのではないかと言う人がいますが、そんなことは全くありません。職員は、忙しいくらいの仕事を目的意識を持ってやらせれば、みんな生き生きして仕事をするのです。

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資材支給事業

次に資材支給事業に取組みました。これは、村道・農道・水路整備などに住民自らが額に汗して工事を施行する。村はその資材を支給するというものです。

「まず隗よりはじめよ・行政も更に意識改革し頑張るから、村の皆さんも何でも行政頼みではなく、自分で出来ることは自ら智恵を出し汗をかいて下さい。そうしないと財政力の弱い我が村は行く行くは大変なことになりますよ」 ということで、村の皆さんに強くお願いしました。半年間ほど、筆舌に尽くしがたい村長との攻防がありましたが、結局村民も納得してくれて、それぞれの地域で、軽微な土木事業はほとんど自らやってくれるようになりました。

資材供給事業資材供給事業

かつては、自分の地域のことは自分達で額に汗しながらやるのが普通のことでした。それが、バブル等を経験する中で、だんだん行政頼みの風潮になった。この資材支給事業を行うことで財政的にも助かりますが、それ以上に村民自ら考え額に汗すれば地域は見違えるように良くなるんだとの意識改革が出来たことが大きいと思います。事業開始から13年目ですが、今でも毎土曜日どこかで当然のこととして取組んでいます。

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合併処理浄化槽の取り組み

上水道事業は、約30億円を投じて、平成2年に完成しました。加入率は99.5%とほぼ全戸が加入しております。この完成により、住宅開発、工場誘致が可能となり村の活性化の大きな力となっております。

上水道が完備しますと次に下水道ということになり、平成元年度から検討を始めました。当時国や県では公共下水・農業集落排水を積極的に進めていました。

しかし、公共下水・農業集落排水に取組めば、上水道事業費の1.5倍、45億円位は最低かかると試算され、補助金をいただいたとしても、30年間にわたり多額の借金を背負うことが見込まれました。また、管渠の布設では1m約10万円程度とイニシャルコストが高額なことに加え、ランニングコストも未来永劫アップし続けるなど、小さな自治体にとって将来非常に危険であるという結論になり、村全体を合併処理浄化槽1本で行くことに決定しました。  

結果、計画基数比96%が総事業費約6億3千万円で仕上がりました。村の実質負担金はたったの2億2千万円です。全額単年度処理で後年度負担なし、ランニングコストも軽微で済んでいます。

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財政指標の好転

こうした取り組みの中で、どうにか良い状況になってきたのが財政指標です。財政力指数は平成16年度0.220で、長野県下でも低いほうです。一方、この度発表された実質公債費比率は5.2で長野県下トップの低さとなっています。交付税措置分を引いた実質起債残高も、平成17年度末で約7億9千万円ですが、基金残高も約27億8千万円ですので、まずまずというところです。このように、財政力指数が0.220でもみんなが一丸となって歯を食いしばってやれば、何とか道は拓けるものだと思うと同時に、今、変革激動の社会に生き残るにはこの道しかないものと考えています。

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若者定住促進で35年ぶりに人口4,200人突破

経済指標が好転してきた中で、人口を増加する政策にも取組みました。若者定住集合住宅の建設です。

1戸建ての住宅は数十戸建設してきましたが、若者が好むマンション風の集合住宅の建設を平成9年から始めました。1棟戸が12標準の建物です。2LDK約20坪の家賃が月3万6千円です。飯田市の民間のアパートは同じ間取りで7万円くらいかかります。駐車スペースも2台分ついていて、飯田市街のアパートの半分くらいの家賃ですので、非常に人気が出て、造ればすぐに入居者が来るようになりました。 

若者定住促進集合住宅若者定住促進集合住宅

平成17年度までに9棟112戸を建設しました。今年も12戸用1棟建設の準備に入っています。集合住宅には、若者で子供がいるか、これから結婚する人に限って入居していただいております。こんな住宅政策のおかげで、人口が35年ぶりに4,200人を突破いたしました。

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合計特殊出生率が上昇

また0歳から14歳までの若年人口率も17.3%と長野県下1位となりました。それからもう一つうれしい指標が出ました。合計特殊出生率(女性が一生の内に生む子供の数)が国では1.25となり、5年連続過去最低を更新しましたが、下條村の出生率は1993〜1997年の1.80が1998〜12002年には1.97に上昇。また、村の試算では2003〜2005年で2.12に上昇しました。

子供さんが多く生まれてにぎやかな声が聞こえ、村に活気が出てきています。ありがたいことです。また、子育て支援策として平成16年度から中学生までの医療費を無料化しました。これは若いお母さん達に大変喜ばれております。それから保育園では延長保育や一時保育、学童保育事業にも取組んで、子育ての支援を行っております。

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魅力ある村づくり

このような子育て支援や若者定住対策事業により、人口が増えたり子供さんが増えたりしたわけですが、今の若い人たちは文化的なものを望んでおります。村に一定の文化施設や保健福祉施設を充実させることが、若者が定着してくれる条件だと思っております。

4,200人余の村としてはちょっと贅沢だとは思いましたが、約7億5千万円をかけ平成6年度に村立図書館を建設しました。昨年10周年を迎えたわけですが、村民一人当たりの貸出冊数が17.0冊で、長野県下では2位と非常に多くの皆さんに利用していただいております。

また、平成12年度には医療福祉保健総合健康センターを約9億3千万円で建設しました。ここには診療所、水中運動ができる可動床式温水のプール、生きがいデイサービス、福祉課の事務室が設置されています。若い人からお年寄りまでの心のよりどころとなっております。

さらに、平成14年度には、文化芸能交流センター「コスモホール」を約9億6千万円かけて建設しました。500席を有する本格的なホールで、音響も良く使い勝手が良いと近隣町村はじめ多く皆さんに利用していただいております。

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終わりに

このように、人口の増加も出生率が伸びたのも、瞬間風速ではなく、長い地道な村づくりの積み重ねが実った賜であると思っております。

職員の意識改革に始まり、村民総参加の村づくり、総合的な魅力ある村づくりを進めてきたことにより、結果として人口が増加し、出生率が伸びた村になることができたのではないかと思います。まだまだこの挑戦は始まったばかりです。

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